ノンテクニカルサマリー

財政フォワード・ガイダンス

執筆者 藤原 一平 (ファカルティフェロー)/脇 雄一郎 (クィーンズランド大学)
研究プロジェクト 高齢化等の構造変化が進展する下での金融財政政策のあり方
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

社会保障・税財政プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「高齢化等の構造変化が進展する下での金融財政政策のあり方」プロジェクト

金融政策では、将来の政策を事前にアナウンスすることを通じて、現在の経済環境にプラスの影響を与えようとするフォワード・ガイダンスが頻繁に用いられている。同じように、財政政策でも、フォワード・ガイダンスは、経済厚生を引き上げることができるのであろうか?

動学一般均衡モデルを用いた解析的そして数値的な分析結果によると、選択的透明性が最適な政策となることがわかった。選択的透明性とは、財政政策の種類に応じて、情報を事前に公開すべきか否かが異なることを要求する情報戦略である。具体的には、将来の消費税などの市場を歪曲させる効果のある税(以下、歪曲税とする)に関する情報提供は事前の経済厚生を悪化させる一方、財政支出など、資源配分や価格に歪みを生じさせない政策に関する将来情報はアナウンスしたほうがよい、という情報開示政策となる。

この選択的透明性の政策効果を定量的に計測するため、1つの数値例として、Hansen and Imrohoroglu (2016)で示された財政再建シナリオについて、増税のタイミングに関する情報を伝えた場合と伝えない場合とで、経済厚生がどの程度変化するかを計測してみた。Hansen and Imrohoroglu (2016)では、日本の政府債務GDP比率を60%程度までに下げるには、消費税を現行レベルから60%程度までに急速に引き上げる必要があるとしている。ここで、n年以内に引き上げがあるかないかを事前に伝えた場合に、nに応じて経済厚生がどのように変化するかをみたものが図1である。横軸はn、縦軸はn=0の時と比べて、経済厚生(を消費をユニットとして表現したもの)が何%改善したかを示している。まず、n=0の時の経済厚生が最も高く、nが大きくなるについて、経済厚生が悪化していることがみてとれる。消費税は歪曲税であるため、事前にその変更に関する情報を伝えないことがよい、という戦略的透明性から示唆される結果が得られている。なお、n=10の時には、n=0の時に比べ、消費が常に0.04%低くなるのと同等の経済損失が発生していることもわかる。これ自体は、小さな数字ではあるが、理論的には、代表的個人モデルにおいて、景気循環から生じる経済損失とほぼ同じレベルのものとなっている。

図1:事前の経済厚生(消費換算%)
図1:事前の経済厚生(消費換算%)

しかし、選択的透明性、特に、歪曲税に関する情報を伝えないことには、動学的不整合性が伴い、政府には、経済厚生を引き上げる情報しか事前に伝えたくない、というインセンティブが存在する。このため、選択的透明性の最適性は、事前のコミットメントの有無に依存することもわかった。

現実的な政策的含意の1つとして、たとえば、増税法案を国会で通す場合には、その後の施行ラグをできる限り短いものとした方がよい、ということを、本稿の結果は示唆している。

文献
  • HANSEN, G., AND S. IMROHOROGLU (2016): "Fiscal Reform and Government Debt in Japan: A Neoclassical Perspective," Review of Economic Dynamics, 21, 201–224.