ノンテクニカルサマリー

外国人高度人材の職業選択と日本的雇用

執筆者 橋本 由紀 (九州大学)
研究プロジェクト ダイバーシティと経済成長・企業業績研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「ダイバーシティと経済成長・企業業績研究」プロジェクト

問題意識

政府は、グローバルな高度人材の獲得を持続的成長に向けた重要施策と位置付け、「専門的・技術的分野」で就労する外国人の受け入れを積極的に推進してきた。ここでの対象は、「専門的・技術的分野」の就労ビザをもつ外国人である。だが、就労職種に制限のない「永住者」や「定住者」など、身分に基づく資格で在留する外国人にも、専門的・技術的分野に含まれる仕事に就く者が少なくない。ゆえに、在留資格に基づく分析では、日本の外国人高度人材全体の実態を捉えることは困難である。そこで本研究では、外国人も含めた日本のすべての居住者を対象とする国勢調査(2000年、2010年)から、大卒外国人の個票データを用いて、高学歴外国人の職業選択の特徴を検討する。

このとき、外国人であっても就労職種や企業を選択する際には、学卒直後の「新卒一括採用」からの長期雇用や、その後の職場異動(ジョブローテーション)を通じた管理職人材の選抜といった日本の労働市場の諸慣行の影響を受けるであろうと考える。そこで、「日本的雇用」へのコミットメントの程度の差を念頭に、一般技能や外国人固有の技能を主に用いる職業をType I、日本での中長期の就業経験や日本語能力がより求められる職業をType IIとして、就労職種で外国人を分類する。具体的には、Type Iに「専門的・技術的職業従事者」、Type IIには「管理的職業従事者」と「事務従事者」が含まれる。その上で、両タイプの労働者間の、国籍、産業、就業地選択などの対照性を示す。

分析結果

分析の結果、Type I労働者とType II労働者の間には、さまざまな相違点が観察された。米国や英国出身者の大半は、Type I職種で働く傾向がある一方、中国や韓国出身者は、Type II職種に就く割合が他国出身者よりも高い。そして、南米や東南アジア諸国出身者については、大卒でも、専門職種やホワイトカラー職種での就労確率が低い。これらの差異は、彼らが就労する産業、日本の滞在期間、教育を受けた場所(日本か海外か)によってある程度説明できる(図1)。

さらに就業地の選び方も、両タイプでは異なることがわかった。Type I労働者はType II労働者よりも、同業種の日本人労働者の多い地域を選ぶ一方で、同国籍者の集住地域での就業は少ない傾向があった。また、過去5年以内に来日したType I労働者の就業地選択は、地域の専門・ホワイトカラー外国人労働者数(国籍は問わない)とも関連していた。ただし、この高技能外国人数の影響は、調査時の経済状況によって異なり、外国人需要が高かった2000年は誘因効果、リーマンショック後の2010年には忌避効果が見出された。

政策的含意

1990年代以降の日本の外国人労働者の受け入れ政策は、「専門的・技術的分野」の高技能労働者の積極的な受け入れと、それ以外の労働者の選択的受け入れという原則のもと、就労可能職種を徐々に拡大する方向で進められてきた。まず、2000年と2010年の国勢調査結果の比較からは、近年ほど、ホワイトカラー職種に就く大卒外国人が数と比率の両面で増加していることがわかった。この傾向は、情報通信業で特に顕著である。アジア諸国との情報処理技術者試験の相互認証など、2000年代初頭の「e-Japan戦略」下で推進された規制緩和の効果とも考えられる。世界的な人材獲得競争の中で、高度人材の日本での就労インセンティブを高めるような政策は、今後も職種を問わず不断に求められるだろう。

だがそれらの政策には、企業が現に需要する外国人高度人材の技能や役割も考慮し、反映されるべきである。これまでは、高度人材の対象拡大やその条件に適合する外国人「数」の増大が目指されてきた。しかし、本研究の分析を通じて明らかになったType IとType IIの労働者の対照性は、企業が外国人高度人材に求める技能・役割の対照性とも解釈できる。Type I労働者は、汎用的だが高い日本語能力は要しない技能や外国人固有の技能を期待される「現代のお雇い外国人」であり、Type II労働者は、日本の大学を修了し、日本語能力や長期雇用などが期待される「日本的雇用になじむ外国人」である。両タイプの労働者は、企業内での位置づけや処遇も大きく異なりうる。「高度人材」を一括りに数の増大を目指すだけではなく、企業が求める人材の質(タイプ)を随時把握し、速やかなマッチングの実現を後押しするような高技能外国人の受入れ施策が要請される。

図:各タイプ職種の就業確率(産業別,30歳男性)
図:各タイプ職種の就業確率(産業別,30歳男性)