ファミリー企業はより優れた（劣った）マネジメン・プラクティスをとるか？

産業・企業生産性向上プログラム （第四期：2016〜2019年度）
「無形資産投資と生産性　－公的部門を含む各種投資との連関性及び投資配分の検討－」プロジェクト

ファミリー企業が優れた経営を行うのは、（1）所有者と経営者とが一致しているために経営者が株主の利益に則した経営を行うからという議論と、（2）ファミリー企業は創業家の影響力や名声といった非経済的な要因を考えて、長期志向、継続性を重視するからという議論がある。

本研究では、企業がどの程度優れた経営管理（組織、人的資源）をとっているかをスコア化したサーベイデータ(*)を用い、企業の所有－経営構造と経営管理スコアとの関係を分析した。

分析の結果、創業家が所有・経営するファミリー企業や創業者経営のファミリー企業は、非ファミリー企業と同程度の経営管理を行っているのに対し、創業家が所有はするが経営していないファミリー企業は非ファミリー企業よりも優れた経営管理をしていることがわかった（表1参照）。さらに、経営者所有はマネジメント・プラクティスに対して負の影響を及ぼすこともわかった（表2参照）。

上記の結果は、（1）よりも（2）の議論と整合的であり、かつ所有と経営の一致（高い経営者の所有比率）は、経営者を律することができずに所有・経営分離よりも劣った経営を行わせてしまうということを示唆する。（2）の理由でファミリー企業が良い経営を行っているのであれば、それは創業時のミッション、創業者の価値観、企業理念などが、創業家のメンバーではない経営者、従業員、その他ステークフォルダーに共有されているからであろう。

現在進められている企業統治改革は、社外取締役の選任や詳細かつ頻繁な財務情報の開示によって経営者をチェックし、株主の利益に則した経営を行わせる試みだが、それは様々なコストを伴う。もし理念の共有で良い経営が行われるのであれば、その方が「安上がり」である。後者の方法によるガバナンスのためには、経営理念の明確化、共有の促進がどの程度行われているかといった非財務情報の開示が求められる。

(*)このサーベイは、2008年と2011年から12年にかけての2回行われたもので、1回目は製造業4業種、サービス業3業種の1145社に対して行われ、573社から回答を得た。2回目は製造業の上場企業3300社あまりに対して行われ、407社から回答を得た。本稿は、回答企業の中から上場企業のみを分析対象とした。