ノンテクニカルサマリー

国際経済関係におけるグローバルガバナンス問題の新しい視角

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「国際経済法を巡るグローバルガバナンスの構造分析-政策間対立、ソフトロー及び非政府主体の相関関係の研究」プロジェクト

国際経済関係における政策課題

米国の問題と思われたリーマンショックにより世界経済が不安定化し、中国の国内問題とも思われる鉄鋼その他における過剰生産能力が世界的な不況をもたらすなど、地球規模での経済政策の調和を図り、深刻な問題発生を未然防止する「グローバル・ガバナンス」の仕組みが求められている。既存の国際枠組みは、WTO協定、投資協定、国際環境条約その他分野別(機能別)にマルチ(多国間)のレジームが発展してきたが、そればかりでなく、貿易自由化、投資保護、規制調和など経済分野を広くカバーする地域の枠組みであるEU、TPPを始め、経済連携協定・自由貿易協定も激増した。しかし、Brexitに象徴されるように、これらの国際ルールおよび地域ルールによって国の主権が侵害されているとの懸念が高まったり、また国際炭素税のように気候変動枠組条約とWTO協定との間すなわち国際・地域ルール相互の間で相互に矛盾抵触が生じているのではないか、との懸念が高まったりしている。この現状を解決する新たな方向性の提案が求められている。

既存の分析枠組みの評価

既存のビジョンは、各国・国際レジームがそれぞれの独自の目的を追求しており、そのために生じる国と国際レジームおよび国際レジーム間に生じる価値対立の調整をそれぞれの国際レジームにおいてアドホックに繰り返し行っている(「共存の国際法」)として、その意思決定の正統性(ないし民主性)を高めるという方向性を打ち出している。TPPなどの経済連携協定は、WTOその他の既存の国際的枠組みに取って代わる世界的枠組となることを企図して競争するものと認識され、その方向でつまりそれぞれが独自の規律を展開するという発展が期待されている。

新しい分析枠組みの提案

これに対して、本ペーパーが提案する新しいビジョンでは、各国・国際レジームが単一の目的を共有し、各国の経済政策をさまざまな角度から(さまざまな政策分野において)統御する仕組みとして、すべての各国法秩序・国際レジームが実は統合されて存在している(「協力の国際法」)として、国際レジームの目的合理性を徹底しようとするものである。この世界では、同じく多数の国際レジームから構成されるグローバルガバナンス体制の単位主体たる国に代わる拡大単位主体として位置付けられ、その角度からの規律が求められる。それが既存の国際ルールの解釈または形成における指針となる。

「協力の国際法」アプローチ 「共存の国際法」アプローチ
国(主体)別分権構造:協力による共通目的の実現(世界経済の最適化)⇒各国経済の最適化+貿易・投資等自由化 グローバル・ガバナンスの基本構造 機能別分権構造:各国が独自の利益を追求しつつ共存⇒各政策分野における国際合意の形成・着実な実行
拘束性と柔軟性とを考慮したルールの形式の最適解 ソフト・ロー 条約に至らない、生成途上のルール
情報提供者、手続参加者としての能動的役割 私人参加 正統性補完の機能を期待される受動的役割
国際レジームの構成単位である国に代わる存在へと役割限定・規律強化 EPA/FTAの位置付け 国際レジーム(WTO)と競合し、置き換える可能性のある存在として把握
文言の範囲内で、共通目的の実現を妨げる法制度の禁止等の目的論的解釈を重視 法解釈のアプローチ 締結時の当事国の共通の意図を探究する文言的解釈が基本