ノンテクニカルサマリー

子育てのあり方と倫理観、幸福感、所得形成-日本における実証研究-

執筆者 西村 和雄 (ファカルティフェロー)/八木 匡 (同志社大学)
研究プロジェクト 日本経済の持続的成長のための基礎的研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「日本経済の持続的成長のための基礎的研究」プロジェクト

子育ては、子供にとっては、親との結びつきの在り方、そして、将来、社会とどう関係するかを決定する。子育ての方法が異なれば、子供の自尊感情、規範意識、自制心なども異なり、そして教育的効果も異なってくる。子育ての方法については、昔から、多くの議論が行われているが、子育てのタイプを分類した理論としては、アメリカの発達心理学者Diana Baumrind (1967,1968)によるものがよく知られている。Baumrindは、子育てのタイプを権威型、専制型、迎合型の3つに分けて分析した。その中で、最も効果的なのは、権威的な親とされた。権威的な親は子供に対して、ルールで管理し、要求も高いが、子供のもっともな要求には耳を傾ける民主的な面をもち、子供の自立を促すからである。その後、Maccoby and Martin (1983) はBaumrindの3つのタイプに、4つ目のタイプである放任型を加えた。

親の子育てのタイプが子供のパフォーマンスに与える影響に関する最近の研究として、444の中国系アメリカ人家庭の調査をしたKim et al. (2013)によるものがある。Kim et al.は、子育てを、支援型、 厳格型、放任型、 虐待型の4タイプに分けた。

その結果、こどもの学業成績、精神的な安定の面で、最も効果があったのは、支援型の子育てであった。その次が放任型、そして厳格型、もっとも効果がなかったのは虐待型の子育てであった。

本稿では、1万人の日本のデータを用いて、日本人の親に多い子育てのタイプと子育ての成果との関係を分析する。具体的には、子育ての方法が子どもの人格形成とパフォーマンスに与える影響について、就業後の所得、幸福感、学歴、倫理規範にどのような影響を与えるかを明らかにした。

本調査は、2016年春にインターネット調査によって実施され、日本人が子供のころに受けた子育てについてのアンケート調査を行い、子育ての方法が子どもの将来に与える影響について分析した。我々は、子供時代の親との関係に関する20項目の質問の回答の因子分析を行い、「関心」「信頼」「規範」「自立」の4つを因子として抽出した。それに、親との「時間共有」経験、親の「厳しさ」の指標を加えた上で、子育ての方法を、支援型、厳格型(タイガー)、迎合型、放任型、虐待型、平均型に分類し、それぞれの子育てを受けたグループの平均所得、幸福感、学歴を比較した。

幸福感の分析は、Hills. and Michael (2002)で提示された質問リストを用い、因子分析によって「前向き思考」と「不安感(安心感)」の2つの因子を抽出した。その上で、所得、前向き思考、不安感、学歴形成という項目について、子育てタイプとの関連性を見てきた。

図1と2は、これらの項目についての男性の回答者の達成度である。不安感は、達成度の点において他の項目とは逆方向となっているため、線形変換によって安心感指標に変えてレーダー図を作成している。また、学歴については、学歴別にポイントを設定し、子育てタイプ別に平均ポイントを計算した。

図から示されるように、支援型は、6つの子育てタイプのなかで、すべての項目で最も高い達成度を示し、前向き思考では他よりも圧倒的に高くなっている。厳格型と迎合型は近い形状をしており、厳格型は所得で迎合型よりも高いものの、安心感では低くなっている。虐待型はすべての項目において最も低い達成度となっているが、放任型も虐待型と近い形状になっている点は注意する必要があろう。

図1:子育てタイプと達成度(支援・厳格・迎合:男性)/図2:子育て別達成度(放任・虐待・平均:男性)

以上の結果は、日本の教育、特に就学前教育と初等教育のあり方に大きな示唆を与える。人材育成、教育投資の効率化に役立つであろう。

文献
  • Baumrind, D. (1967). Child care practices anteceding three patterns of preschool behavior. Genetic Psychology Monographs, 75(1), 43-88.
  • Baumrind, D. (1968). Authoritarian vs. authoritative parental control. Adolescence, 3, 255-272.
  • Hills, P. and Michael A. (2002), "The Oxford happiness questionnaire: a compact scale for the measurement of psychological well-being," Personality and Individual Differences 33, 1073-1082.
  • Kim, Su Yeong, Yijie Wang, Diana Orozco-Lapray, Yishan Shen, and Mohammed Murtuza (2013),"Does 'Tiger Parenting' Exist? Parenting Profiles of Chinese Americans and Adolescent Developmental Outcomes," Asian American Journal of Psychology, Vol. 4, No. 1, 7-18.
  • Maccoby, E. E., & Martin, J. A. (1983). Socialization in the context of the family: Parent-child interaction. In P. Mussen (Ed.) Handbook of Child Psychology Vol.4. New York: Wiley