執筆者 | 森川 正之 (理事・副所長) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
1.問題意識
2012年秋以降、円安にも関わらず工業製品の輸出数量の伸びがはかばかしくないことが懸念されてきたが、対照的にサービス輸出は着実に増加してきた。特に外国人観光客数は顕著に増加しており、旅行収支の大幅な改善につながっている。外国人旅行者数の為替レート弾性値は大きく、為替レートの円安化が大きく影響したことは明らかである。こうした中、政府は、訪日外国人の数値目標を2020年に4000万人、2030年には6000万人へと大幅に引き上げることとしている。
訪日外国人の消費額の約3割が宿泊代であり、宿泊サービス産業は外国人旅行者急増の恩恵を強く受けている。宿泊業の生産性や収益性にとって稼働率が極めて重要であり、宿泊施設は曜日別や季節別の料金設定、閑散期のさまざまなキャンペーンなどを通じて平均稼働率の向上に努力している。外国人宿泊客は単純な総宿泊者数の増加という需要拡大効果にとどまらず、需要平準化効果を通じて宿泊サービス業の計測される生産性を改善する。宿泊サービス業にとって、外国人旅行客は、季節・曜日など需要の時間的なパタンが日本人宿泊者と異なる点にメリットがある。
2.分析内容
本論文は、「宿泊旅行統計調査」(観光庁)の都道府県集計レベルのパネルデータを用いた森川 (2015)の分析を発展させ、宿泊施設レベルのミクロデータ(2011〜2015年)を使用し、宿泊業の生産性に対する外国人旅行客の効果について分析した。
具体的には、延べ宿泊者総数を被説明変数とした宿泊生産関数を推計した。主な説明変数は資本ストックの代理変数である施設キャパシティ(宿泊定員)、労働投入量を表す従業者数、外国人宿泊者比率である。変数は全て金額ではなく数量データなので、外国人宿泊者比率が物的な全要素生産性(TFPQ)に及ぼす効果を計測することになる。できるだけ同質的な宿泊施設について分析を行うため、宿泊施設タイプ((1)旅館、(2)リゾートホテル、(3)ビジネスホテル、(4)シティホテル)別に推計を行う。また、外国人宿泊者比率の内生性を考慮し、同一地域(市区町村または都道府県)内の他施設における外国人宿泊者比率を操作変数として推計を行う。
3.分析結果と政策含意
分析結果によれば、訪日外国人旅行者の増加は、宿泊サービス業の計測されるTFPQ向上に大きく寄与している。この効果はビジネスホテルやシティホテルで大きく、外国人宿泊比率が1標準偏差高くなったときのTFPQへの効果は、旅館6%ポイント、リゾートホテル4%ポイント、ビジネスホテルおよびシティホテル11%ポイントである(図参照)。ただし、外国人宿泊者数は施設による異質性が大きく、同じ業態の中でも一部の宿泊施設で大幅に増加している一方、外国人宿泊者が依然としてゼロという施設も多い。
訪日外国人旅行客を増加させる諸政策は、サービス輸出という総需要の拡大だけでなく、宿泊業の稼働率上昇を通じて生産性向上にもつながり、日本の経済成長率を高めることに寄与することを示唆している。
- 参照文献
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- 森川正之 (2015), 「外国人旅行客と宿泊業の生産性」, RIETI Discussion Paper, 15-J-049.