ノンテクニカルサマリー

日本企業の為替リスク管理とインボイス通貨選択 「平成25年度 日本企業の貿易建値通貨の選択に関するアンケート調査」結果概要

執筆者 伊藤 隆敏 (プログラムディレクター)/鯉渕 賢 (中央大学)/佐藤 清隆 (横浜国立大学)/清水 順子 (学習院大学)
研究プロジェクト 為替レートのパススルーに関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

国際マクロプログラム (第三期:2011〜2015年度)
「為替レートのパススルーに関する研究」プロジェクト

本論文では、海外活動を行っている製造業の全上場企業962社を対象として2013年9月に調査票を送付して実施した「日本の貿易建値通貨の選択に関するアンケート調査」の回答結果を報告し、前回2009年9月の同様の調査の回答結果と比較して、日本企業のインボイス通貨選択と為替リスク管理の現状と過去4年間の変化を明らかにしている。

同アンケート調査は、日本企業の為替リスク管理の実態からインボイス通貨選択まで多岐にわたる調査項目によって構成され、調査票送付企業の5分の1にあたる185社(2009年調査は227社)から回答を得たが、そのうち69社が前回調査と重複する回答企業であった。

為替リスク管理の状況

図1は、取引外国通貨数の平均値と、市場を通じたヘッジ手段およびマリー・ネッティングを利用していると回答した企業の割合について、2009年調査と2013年調査の比較を行っている。

2009年から2013年にかけて、回答企業が取り扱っている(円を除く)取引通貨の種類は平均3.1種類から3.4種類に増加している。2014年調査の回答企業のうち、2009年調査においても回答していた企業のサンプル(69社)に限定しても、取引通貨の種類は平均3.2種類から3.4種類に若干増加している。これに対して、先物為替予約、通貨オプション、通貨関連デリバティブなどの何らかの市場を通じた為替ヘッジ手段を利用している回答企業の割合は、73%から65%に低下しているが、2009年・2013年両調査の回答企業に限定すると、割合は67%および66%でほぼ一定である。企業内の貿易取引について(同一通貨の輸出入取引を相殺するなど)マリーやネッティングを行っている企業の割合40%前後でほぼ一定であり、両調査の回答企業に限定してもこの傾向は変わらない。以上の結果は、2009年調査結果と2013年調査結果の間に日本企業の為替リスク管理の観点について大きな変化がなかったことを示している。

インボイス通貨選択の状況

図2は、日本から世界への総輸出のインボイス通貨別の割合の回答企業の平均値を示している。日本から世界向けの総輸出における円建て比率は2009年の48%から2013年の42%へ6%低下した。対照的に米ドル建て比率は42%から49%に7%程度上昇した。一方で、ユーロ建てやその他通貨建て比率には大きな変化はなかった。2009年・2013年両調査の回答企業に限定しても、2009年から2013年にかけて円建て比率が低下し、代わって米ドル建て比率が上昇した傾向が確認できる。

 

図3は、日本からの輸出における円建て・相手国通貨建て比率を主要な仕向地別に示している。英国を除く、全ての仕向け国・地域で、2009年から2013年にかけて、円建て比率が低下している。特に中国と韓国向け輸出において低下傾向が顕著であり、この4年間に円建て比率が10%程度も低下した。一方で、2009年から2013年にかけて、相手国通貨建て比率は、先進国・地域向けではほとんど変化はなかった。この4年間で相手国通貨建て比率の顕著な上昇があったのは中国向け輸出である。中国向け輸出における元建て輸出比率は2009年調査では1%程度であったが、2013年調査では8%にまで上昇し、2009年調査から微減したタイに代わって中国が、日本企業からの輸出における相手国通貨建て比率の最も高い国となっている。

企業規模別の特徴

表1は2013年調査結果の回答企業を連結売上高の規模によって3つに分割し、大規模企業(連結売上高上位1/3)と小規模企業(連結売上高下位1/3)の平均値を報告している。

大規模企業は小規模企業と比較して、取扱い外国通貨数の種類が多く、市場を通じた為替ヘッジ手段および企業内の貿易通貨選択を通じたヘッジ手段(マリー・ネッティングおよびリインボイスの利用)を活発に行っている。またインボイス通貨選択の観点でみると、大規模企業の日本から世界への総輸出における円建て比率の割合は、小規模企業と比較して、約30%も低い。代わって、米ドル建ておよびユーロ建て比率がより大きな割合を占めている。仕向地別にみると、先進国(地域)向けでは大規模企業ほど相手国通貨建て比率は高く、アジア向けでは大規模企業ほど円建て比率が低いことが顕著な特徴である。

本調査結果のインプリケーション

第1に、日本の輸出企業における円建て輸出比率は2009年から2013年にかけての4年間で顕著に低下した。この円建て比率低下の要因は、仕向地別にみると特にアジア向けの輸出において低下が大きいことと、企業規模別においては大規模企業ほど低下が大きいことである。

第2に、輸出における円建て比率の低下の背後には、米ドル建て比率の顕著な上昇と、アジア主要国、特に中国における相手国通貨建て比率の急激な上昇がある。このうち、米ドル建て比率の上昇は、主に大規模企業において顕著に上昇している。

第3に、大規模企業ほど、多様な外国通貨のキャッシュフローに直面し、市場および企業内の為替リスクヘッジ手段を活発に利用している。

今後の日本の輸出企業のインボイス通貨選択と為替リスク管理の状況を予測するには、グローバル化された生産販売構造を持つ大企業の為替リスク管理とインボイス通貨選択の決定要因を分析し、その上で、アジアの主要な貿易相手である中国の通貨国際化の進展が与える影響を考慮することが極めて重要である。

図1:取引外国通貨数、市場を通じたヘッジ手段、マリー・ネッティングの利用:2009年調査・2013年調査
図1:信用リスクプレミアムと流動性リスクプレミアム
図2:日本から世界向けの総輸出におけるインボイス通貨別割合:2009年調査・2013年調査
図2:日本から世界向けの総輸出におけるインボイス通貨別割合:2009年調査・2013年調査
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図3:日本からの輸出における円建て・相手国通貨建て輸出の割合:2009年・2013年調査
図3:日本からの輸出における円建て・相手国通貨建て輸出の割合:2009年・2013年調査
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表1:2013 年調査結果のまとめ:企業規模別
大規模企業
(連結売上高上位1/3)
小規模企業
(連結売上高下位1/3)
差額
(大規模‐小規模)
【為替リスク管理】
取り扱い外国通貨数 5.3種類 1.9種類 3.4種類
市場を通じたヘッジ手段の利用 87% 39% 48%
マリー・ネッティングの利用 48% 24% 24%
リインボイスの利用 48% 17% 31%
【インボイス通貨選択】
日本から世界向け総輸出
26% 55% -29%
米ドル 63% 41% 22%
ユーロ 7% 2% 4%
先進国向け輸出での相手国通貨建て
米国 89% 77% 12%
ユーロ圏 60% 33% 27%
英国 26% 41% -16%
アジア向け輸出での円建て
中国 29% 61% -32%
韓国 39% 78% -39%
タイ 41% 69% -28%