産業、職種経験が有配偶女性の再就職行動に及ぼす影響

人的資本プログラム (第三期：2011〜2015年度)
「ダイバーシティと経済成長・企業業績研究」プロジェクト

我が国を取り巻く経済・社会状況は大きく変化している。この中でも少子高齢化による労働力人口の減少を背景に、女性就業へ注目が集まっている。特にこれまで出産・育児などで労働市場から退出していた有配偶女性の活用を促進することは、政策的にも関心が高い。

出産退職後の有配偶女性の再就職行動については、これまで数多くの研究蓄積がある。これらのうち、内閣府の『平成18年度版　国民生活白書』では女性の再就職を阻む大きな障害の1つとして、離職後の職業能力の低下をあげている。離職後の無業期間が延びるにつれて、就業中に蓄積された人的資本が陳腐化し、生産性が低下するため、再就職が困難になったり、仮に再就職できても賃金が低下しやすくなる。しかし、生産性の低下が緩やかな職業能力を形成してきた場合、再就職しやすい可能性も考えられる。

ここで疑問となるのは、どのような職業能力が再就職に対して有効なのかという点である。職業能力は、経済学の視点では人的資本理論を用いて解釈することができる。近年の人的資本理論では、特定の産業や職種でしか有効活用できない産業特殊的人的資本や職種特殊的人的資本の重要性を指摘する研究が増えてきているものの、再就職との関係を検証した研究は少なく、明らかになっていない点も多い。

そこで、本研究では出産や育児によって退職した女性の再就職にどのような産業、職種経験が有効に働くのかを検証した。使用データは、2002年の『就業構造基本調査』の個票データである。本稿の最大の特徴は、中分類の産業、職種カテゴリーを使用することで、詳細な産業、職種経験と再就職の関係を検証している点にある。

分析の結果、次の3点が明らかになった。1点目は、再就職に関する分析の結果、専門的・技術的職業従事者の中でも医療業、社会保険、社会福祉で働く看護婦、看護師、その他の保健医療従事者、社会福祉専門職従事者ほど再就職しやすい傾向にあることがわかった。2点目は、同一職種への再就職に関する分析の結果、表に掲載されているように、看護婦、看護師、その他の保健医療従事者ほど同一職種で働くことがわかった。また、同一産業への再就職に関する分析の結果、 卸売・小売業、飲食店やサービス業ほど同一産業で働くことがわかった。3点目は、不本意就業に関する分析の結果、再就職前後で同一職種であるほど、不本意就業となりにくかったが、中でも看護婦、看護師、社会福祉専門職従事者で不本意就業となりにくかった。また、再就職前後で同一産業であるほど、不本意就業となりにくかった。