執筆者 | 湊 照宏 (大阪産業大学) |
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研究プロジェクト | 経済産業政策の歴史的考察―国際的な視点から― |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
政策史・政策評価プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「経済産業政策の歴史的考察―国際的な視点から―」プロジェクト
台湾経済の高成長期といえる1960年代中頃から1970年代末期は、年率2桁成長の時代であった。まず指摘し得るその特徴は、貿易依存度が極めて高かったことである。名目GDP(支出側)構成比が示される表にあるように、高成長期始期である1964年時において既に輸出20%、輸入19.2%という高さであり、その後一貫して上昇し、高成長期末期の1978年時には輸出52.4%、輸入45.9%という高さに至っている。
1960年 | 1962年 | 1964年 | 1966年 | 1968年 | 1970年 | 1972年 | 1974年 | 1976年 | 1978年 | |
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民間最終消費支出 | 68.1 | 67.5 | 63.1 | 61.2 | 59.9 | 56.3 | 52.1 | 54.5 | 52.1 | 50.2 |
政府最終消費支出 | 19.3 | 20.0 | 17.4 | 17.4 | 17.9 | 18.3 | 16.1 | 14.1 | 15.2 | 15.2 |
総固定資本形成 | 16.6 | 15.1 | 14.6 | 19.1 | 22.0 | 21.6 | 23.7 | 28.5 | 27.7 | 25.8 |
在庫品増加 | 3.6 | 2.7 | 4.1 | 2.2 | 3.1 | 3.9 | 1.9 | 10.7 | 2.9 | 2.4 |
輸出 | 11.5 | 13.6 | 20.0 | 21.8 | 24.3 | 30.3 | 42.3 | 43.9 | 47.5 | 52.4 |
輸入(控除) | 19.0 | 18.9 | 19.2 | 21.6 | 27.1 | 30.4 | 36.0 | 51.7 | 45.4 | 45.9 |
合計 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
出所:行政院主計処『中華民国台湾地区国民所得』1990年、pp.30-35。 |
輸出主導型成長と称される台湾経済の高成長過程においては、民間消費と設備投資も拡大していたことが重要である。表中の民間最終消費支出は1964年の63.1%から1978年の50.2%に低減しているものの、DP本文にあるように、実質GDP成長率に対する民間最終消費支出の寄与度は安定して高かった。労働集約的輸出産業(紡織業と電気・電子機器製造業)における低賃金労働力の吸収→低・中所得層への分配増加→個人消費の拡大というように、外需拡大は内需拡大をもたらしていた。
個人消費の拡大を招いた実質賃金の上昇は、労働集約的輸出産業の国際競争力を減じるものであったが、綿・化繊紡織業者は積極的に設備投資を行い、生産性の上昇でそれを相殺した。化繊紡織業の発展による化繊需要の拡大を背景に、高率関税や外資との技術提携策といった政策を受けつつ発展した化繊製造業も、固定資本形成を牽引した。こうした「輸出と投資の好循環」を表すように、表中の総固定資本形成の比重も増加傾向にあった。
ただし、設備投資の進展は機械輸入の増加をもたらし、実質的に投資が内需と結びついていたわけではなかった。そのため、台湾政府による輸出産業に対する設備投資誘因の付与については、法人税減免のほか、機械輸入関税の免除・分納制などが加わった。台湾政府は機械産業の育成も目指してはいたものの、成長を主導する輸出産業の設備投資に不利益が生じる事態は避けていたことになる。国際競争力が高い労働集約的産業と低い機械産業を抱える当時の産業構造から生じた台湾政府の経済政策であった。