執筆者 | 武田 晴人 (ファカルティフェロー) |
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研究プロジェクト | 経済産業政策の歴史的考察―国際的な視点から― |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
政策史・政策評価プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「経済産業政策の歴史的考察―国際的な視点から―」プロジェクト
本論文は、2001年の経済産業省発足の前後の時期に焦点を定めながら、この時期に生じた通商産業政策・経済産業政策の基調変化を1970年代半ばからの政策展開という歴史的な視点から振り返り、その歴史的な位置を明らかにしたものであるが、とくに強調されていることは、通商産業政策が経済成長に対してとっていたスタンスの変化である。
すなわち、1990年代はじめまでの通商産業政策は、結果としての経済成長の実現に意義を持っていたとしても、政策的な狙いは経済成長それ自体であったわけではなく、経済構造のゆがみや分配面の問題点に関心を払うことに軸足があった。そのため、たとえば二重構造問題は経済発展の足かせとなると考え、中小零細企業の近代化・合理化を目指し、政策的介入による補整に努めた。同様に衰退産業に生じる摩擦的な問題に対処してきた。
しかし、1990年代後半に入ると、経済構造改革は、長期の不況を日本経済の構造的な問題の帰結と捉えることによって、これまでの構造的な問題への対処という政策の基本的なスタンスを維持しながら、より直接的に経済成長路線の実現を政策課題とするようになった。それは、不況の長期化のもとで、財政再建、景気回復などの複数の政策課題を一挙に解決することが求められたからであり、その際のキーワードは「経済構造改革」であった。こうした転換は、下表のように主要な政策主題に大きな転換をもたらすとともに、新たな政策課題に取り組むことを求めるものとなった。
こうして世紀転換期に通産(経産)政策は、中央省庁の再編と前後して市場経済システムへの信頼を前提として企業の自主性を尊重するものへと変容し、国境を越えて共有できるユニバーサルな考え方に基づくものへと変化していった。しかし、その後の展開を含めてみると、マクロ的な景気政策が市場経済に不可避的に内包されている累積的な悪循環に対する調整的な市場介入政策を主要な要素とする限り、通産政策、経済産業政策は、企業行動の自由をできるだけ広く保障することによって経済の活力を回復しうる、というような簡明な論理だけでは政策理念としては十分ではなくなっていることも認められなければならないだろう。この点は、経済活力の回復のためには単なる競争秩序の維持の促進にとどまらず、市場のプレーヤーである企業それ自体の改革、つまり企業システムの改革、雇用システムの改革などが経済構造改革に際して模索されるようになったことにも示されている。また、ルール指向型の国際調整も、新しい地域協定、新しい二国間協定の動きによって、「自由貿易体制をまもる」という原則だけでは対処が難しくなっている。その意味では、経済産業政策の転換は未完であり、また転換の方向にも不確定な要素が含まれているということができる。
1997年に行政改革会議『最終報告』に示された経済産業省の政策領域と政策手段に関する基本的な考え方は、1つの時代の思潮・政策理念を代表するものであるが、それが不変の真理ということではない。この報告から20年近くが経過して、このような企業の自主性と市場メカニズムに信頼を置くという政策手段に関わる自己限定的な方針がどのように定着してきているのかを検証すべき時に来ている。経済成長路線に回帰しようという試みは、経済産業政策による効果を相殺するような国際経済社会の動揺などの影響もあって十分に成果を上げてきたとはいえない。通産省時代における政策課題の発見やこれに対する対応策の選択が時代状況に応じて柔軟であり、創造的で状況を打開する力を持ち得たと評価されている。このような歴史的な評価からは、政策課題の発見と対策の立案に柔軟な対応力を内生的に生み出す努力が期待されていることを示唆している。
政策分野 | 概要 |
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転換する政策主題 | |
立地政策 | 地域間の格差是正を課題としてきた産業立地政策(工業再配置促進、1983年テクノポリス法、1988年頭脳立地法など)では、一連の立地関係法は1998年に廃止され、新事業創出促進法(1998年)が制定。さらに2001年に、新産業都市建設促進法・工業整備特別地域整備促進法廃止。 |
中小企業政策 | 1999年の中小企業基本法が改正、その基本理念として、中小企業を「多様な事業の分野において特色ある事業活動を行い、多様な就業の機会を提供し、個人がその能力を発揮しつつ事業を行う機会を提供することにより我が国の経済の基盤を形成しているもの」と捉えるもの。 |
産業技術政策 | 工業技術院の産業技術総合研究所への改組――国の関与の後退 |
新たな課題を見出した政策分野 | |
公害問題から地球環境問題へ | 1993年の「環境基本法」、94年の環境基本計画閣議決定 リサイクル問題への取り組みなどが企業の自主性を尊重して追求 |
エネルギー政策 | 「安定供給の確保」「環境への適合」「市場原理の活用」を三大基本課題としたが、3.11以降の見直しが求められている |
通商政策 | 「多国間主義」から「二国間協定・多国間協定併用主義」への移行過程 |