ノンテクニカルサマリー

韓国の産業構造変化・産業発展・産業政策

執筆者 呂 寅満 (江陵原州大学)
研究プロジェクト 経済産業政策の歴史的考察―国際的な視点から―
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策史・政策評価プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「経済産業政策の歴史的考察―国際的な視点から―」プロジェクト

1960〜80年代半ばまでに、韓国は年率8.5%程度という高度成長を遂げた。この高度成長は国家主導・対外指向的成長という特徴を有していた。その間、韓国の産業構造では重化学工業を中心とする第2次産業の急速な比重拡大が見られ、韓国の輸出商品もまた、軽工業から重工業へとシフトしていった(表を参照)。こうした重化学工業化を中心とした高度成長には、経済政策とくに特定産業の保護・育成を目的に資源を集中的に配分してその波及効果によって国民経済の成長を促進させようとした産業政策の影響が大きかった。本稿は産業発展に与えた産業政策の影響を、時期別に代表的な産業を事例として取り上げて分析した。1960年代には輸出軽工業の繊維、70年代には重化学工業の造船、80年代前半は合理化政策対象だった自動車産業を分析した。

繊維のうち綿紡織の場合、政府が推進した輸出増進政策が成功を収めたが、その理由は、民間の意見を輸出支援制度という形で適切に反映させたことにあり、その背景にはこの産業に精通し民間の利害を理解した官僚の存在があった。比較的新しい産業である化繊の場合も、外資導入認可の審査過程で産業の動向を政府が理解していたために、情報の非対称性が生じることなく、輸出の義務化という政策手段を講じることができた。

一方、造船業における産業政策は、少なくとも1990年までを見る限り、代表的な失敗事例である。その最大の理由は国際市場の動向を無視し、民間に投資を要求したことにあった。当初、政府より情報力に優位に立った民間企業は政府の構想を遥かに超える大規模な設備で成功を収めたが、政府はオイル・ショックという根本的な状況の変化に気づかず、他の企業にその事例をそのまま適用させようとしたからである。もちろん、この時期の投資によって韓国は1990年代以降の造船業の好況期に短期間に造船大国として躍り出ることになるが、この時期の産業政策との直接的な関係は少なかった。

自動車産業に対する産業政策は1970年代までは宣言にとどまり、高率の輸入関税による国内産業保護以外には具体的な効果を挙げていなかった。下請けシステムに関する政策の場合、初期に政府の案が反対にぶつかると業界の案に変更するなど、全般的に企業間関係までには介入せず、技術開発についても企業の戦略をサポートする役割にとどまった。ところが、1980年代初めの経営危機には投資調整・合理化措置など安定化政策を実施し、産業の競争力回復に影響した。その意味で、自動車産業に関する産業政策は、民間に比べて政府の情報の劣位を最初から認めたうえで、状況に合わせて民間から求められる措置を実施したものであった。

以上のように、産業政策の役割は時期別・産業別に異なり、1979年までが産業の育成に重点が行われたのに対して、1980年代前半は投資調整・産業合理化などが中心であった。そして、1986年の工業発展法の制定によって、それまでの個別産業を選別して振興させるような産業政策から産業一般にかかわる機能別産業政策に転換した。また、民間に比べた場合の政府の情報能力の差によって産業への影響力にも差がみられることが判明した。

表:輸出商品の構造変化推移(単位:%)
区分 1963 1969 1970 1973 1979 年平均増加率
1963-79 1963-69 1970-79
工業製品 75.6 83.3 87.2 87.8 89.8 39.7 41.5 38.2
軽工業 66.6 69.8 61.9 55.6 51.4 35.9 40.4 36.7
繊維 39.1 40.7 39.6 37 24.5 34.2 40.2 31.7
木製品 13.1 12.9 9.5 4.7 3.3 26.8 38.9 32.6
2.5 1.7 3.3 5.2 4.9 44.1 30.6 37
その他 11.9 14.5 9.6 8.7 18.7 42.1 43.9 50.1
重化学工業 9.1 13.5 25.2 32.2 38.4 51.2 48.7 40.6
科学 0.6 1.6 1.5 1.5 3.6 33.8 11.7 52
金属製品 3.4 3.1 8 7.9 10.7 48.4 37.1 42.6
機械 2.2 2.6 1.8 1.7 5.6 46.5 43.2 57.4
電子機器 2.2 - 9.7 10.2 9.9 51.8 - 37.7
輸送機器 - - 0.7 4.4 - - - 35.7
自動車 - - 0.5 0.3 0.4 - - 42.4
船舶 - - 0.2 3.6 3.4 - - 37
精密機械 0.3 0.2 0.7 1.8 0.5 42.7 91.1 19.6
その他 0.3 - 2.7 4.7 - 63.2 - 36.5
第1次産品 24.4 16.7 12.8 12.2 10.2 30.8 30.7 35.2
合計 100 100 100 100 100 38.2 39.3 37.9