執筆者 | 東條 吉純 (立教大学) |
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研究プロジェクト | 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)」プロジェクト
本論文は、国有企業・特権企業に対する国際規律のあり方について考察したものである。これまで論じられてきた国際規律を、その法的性質に応じて分類すると、第1に、国有企業の設立・運営を通じて、国家の国際法上の義務の潜脱行為を防止する迂回防止型ルールであり、第2に、国有企業・特権企業に与えられた各種優遇措置による競争上の優位性がもたらす競争歪曲効果を除去する公正競争型ルールである。また、公正競争型ルールの内容は、国有企業が自国の市場で外国企業と競争関係に立つ場合(インバウンド競争)と、国有企業の国際的進出先国の市場で外国企業と競争関係に立つ場合(アウトバウンド競争)とで異なる。というのは、インバウンド競争市場においては、公益サービス等の提供などを負託された国有企業・特権企業の事業活動にかかる国家の公益追求の正当性が一定程度尊重されるべきだからである。この意味において、EUを一方締約地域とするFTAにおいて国有企業への競争法適用を一般原則とした上で、公共政策実現のバランスも考慮したEU機能条約第106条2項の条文を組み込んだ公正競争型ルールが注目される。他方、アウトバウンド競争市場においては、より直接的に、競争条件の公正性を求めるルールが法的な正当性をもちうる。TPP協定において新たに創設された、非商業的援助による悪影響の防止義務はこの系譜に連なる規律である。
本論文が提案する国有企業・特権企業に対する国際規律モデルは以下の通りである。
(1)国有企業・特権企業を通じた、国家の国際法上の義務の潜脱行為を規制するための迂回防止型ルール
(2)アウトバウンド競争における公正な競争条件の確保(国家による競争上の優位性の影響除去)のための公正競争型ルール
(3)インバウンド競争における競争法適用と当該国の公益との適切な均衡を実現する公正競争型ルール