執筆者 | 枝村 一磨 (科学技術・学術政策研究所)/乾 友彦 (ファカルティフェロー) |
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研究プロジェクト | ダイバーシティと経済成長・企業業績研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
人的資本プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「ダイバーシティと経済成長・企業業績研究」プロジェクト
問題意識
日本において、研究者における女性の人数および割合が年々上昇している。2013年には女性研究者数は約13万人となり、研究者全体の14.6%となっている。ただし、女性研究者の割合について統計が確認できる国のうち、ドイツでは26.8%(2011年)、フランスでは25.6%(2012年)、イギリスでは37.8%(2012年)、ロシアでは40.9%(2013年)、アメリカでは34.4%(2013年)となっており、日本は先進諸国に比べて比率が低い(表1)。また、企業の研究者に占める博士号取得者の割合を見ても、日本は先進諸国に比べて低い。日本では4%であるのに対し、アメリカでは14.2%(2013年)、フランスでは12.1%(2011年)、ロシアでは10.8%(2013年)となっている(表2)。
本稿では、企業において女性研究者や博士号取得者の雇用が特許出願行動に与える影響を、研究者の多様性と研究開発活動との関係を定量的に分析する。また、企業の研究者の多様性として、女性研究者や博士号取得者の人数および割合、研究者の研究分野、研究者の年齢構成を考慮し、企業レベルで統計分析を行う。
日本 | アメリカ | ドイツ | フランス | イギリス | ロシア |
---|---|---|---|---|---|
14.6% | 34.4% | 26.8% | 25.6% | 37.8% | 40.9% |
日本 | アメリカ | フランス | ロシア |
---|---|---|---|
4% | 14.2% | 12.1% | 10.8% |
結果の概要
2011実績年の民間企業の研究活動に関する調査および2012年科学技術研究調査の個票データと、IIPパテントデータベースを用いて、企業における研究者の多様性が研究開発活動に与える影響を統計分析した。研究者の多様性を示す代理変数として、女性研究者や博士号取得者の人数、研究者に占める女性および博士号取得者の割合、研究者の研究分野の偏り、研究者の年齢構成の偏りを用いて、特許出願件数や、出願された特許の技術分野の偏りを示す特許多様性に回帰した推計結果をまとめたのが表3である。女性研究者の人数が多く、研究者に占める女性割合が高い企業ほど、特許を多く出願し、かつ幅広い分野の特許を出願している傾向があるという結果が得られた。また、博士課程取得研究者の人数が多く、研究者に占める割合が高い企業ほど、多く特許出願を行い、幅広い技術分野の特許を出願する傾向があることも統計的に示唆された。ただし、女性研究者および博士課程取得研究者の2乗項の係数は有意にマイナスであることから、女性研究者および博士課程取得研究者は特許件数や特許多様性と逆U字の関係にあることも示唆された。さらに、さまざまな研究分野の研究者を雇用している企業ほど、特許出願件数が多く、さまざまな技術分野の特許を出願しているという結果も得られた。企業における研究者の年齢構成に偏りがない企業ほど、研究開発効率が高い可能性も示唆された。
特許件数 | 特許多様性 | ||
---|---|---|---|
女性研究者数 | +++ | +++ | |
女性研究者数の2乗項 | −−− | −−− | |
女性研究者割合 | +++ | ||
女性研究者割合の2乗項 | −−− | −−− | |
博士課程取得研究者数 | +++ | +++ | |
博士課程取得研究者数の2乗項 | −−− | −−− | |
博士課程取得研究者割合 | +++ | +++ | |
博士課程取得研究者割合の2乗項 | −−− | −−− | |
研究分野多様性 | 全体 | +++ | +++ |
男性 | +++ | +++ | |
女性 | +++ | +++ | |
研究者年齢多様性 | +++ | +++ | |
注:+++、−−−は、1%水準で有意であることを示す。 |
ポリシーインプリケーション
企業における女性研究者の人数や割合、博士課程取得研究者の人数や割合、研究者の研究分野の多様性、研究者の年齢構成が特許出願行動にプラスの効果を持つという推計結果から、研究者の量と質の両面において雇用が最適水準にはない可能性が指摘できる。女性研究者や博士課程取得研究者(博士人材)の雇用を最適水準に誘導するための政策的サポートが、日本企業の研究開発活動を促す可能性がある。男性、女性問わず、出産や育児によって研究活動が中断されることを避けるような制度整備を行うことで企業が研究活動を遅滞なく進めることができるようにし、さまざまな研究分野の研究者を積極的に雇用するような政策を推進すれば、日本企業の研究開発活動を活発化させ、日本の科学技術イノベーションを促進させることにもつながるかもしれない。また、管理職への女性の登用は部署を問わず少ない傾向にあるが、妊娠や出産などの女性特有の事情を適切に考慮し、男女間での研究開発に関する能力を公平に評価しつつ、研究開発における管理職(研究ディレクターなど)への女性の積極的な登用を行うことも、日本企業の研究開発活動を活発化させる可能性がある。