執筆者 | 鈴木 智子 (京都大学)/竹村 幸祐 (滋賀大学) |
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研究プロジェクト | ダイバーシティと経済成長・企業業績研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
人的資本プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「ダイバーシティと経済成長・企業業績研究」プロジェクト
問題意識
中長期的観点で見た日本経済の課題の1つに、少子・高齢化による労働力の縮小が挙げられる。日本経済を持続可能な成長路線に乗せるためには、多様な人材が活躍できるダイバーシティ経営を促進することが重要であろう。政府の取り組みの効果もあり、2000年以降、たとえば共働き世帯数は継続的に増加し、また管理職に占める女性の割合も増加傾向にある(平成24年度国土交通白書)。数の上では、ダイバーシティ化は着実に進んでいるといえよう。
しかし、企業業績に対するダイバーシティの影響については、先行研究からはポジティブとネガティブの両方の効果が得られている。たとえば、情報処理・意思決定理論の立場からは、多様な人材が集まる組織は、多様かつ膨大な量の知識やスキルを持ちあわせるため、チーム・パフォーマンスが向上すると考えられている。反対に、社会的アイデンティティ理論の立場からは、チーム・メンバーが内集団と外集団に分類されることによって、チーム・パフォーマンスが阻害されることが指摘されている。その他にも、similarity-attraction理論によると、人は価値観・信念・態度が類似している人と働くことを好むため、多様性はチーム・パフォーマンスに負の影響を与えるといわれている。これらの研究が示唆しているのは、ダイバーシティ化によって企業業績を向上させるためには、多様な人材の量を増やすだけでなく、多様な人材が集まった組織をどうマネジメントしていくかということについても、同時に取り組む必要があるということである。
本稿では、多様な人材が集まっているチームがポジティブな効果を出すためには、チームのリーダーが鍵を握っていることを実証的に示す。とくに、リーダーの人間的特性、具体的には「普遍的-多様的」志向(universal-diverse orientation)、が重要であることを明らかにする。普遍的-多様的志向とは、「他者における認知的・行動的・感情的側面の類似点と相違点の両方を知覚し、受容」することができる特性である。効果的な社会的な相互作用のためには、お互いの似ているところに対する認識だけでなく、お互いに似ていないところについても認識する必要があるといわれている。したがって、多様な人材が集まっているチームにおいても、チーム・リーダーがチーム・メンバーの類似点と相違点の両方を知覚できることによって、チームのパフォーマンスが向上すると考える。
調査概要と結果
本調査では、さまざまな企業業績のうち、イノベーションに焦点を当てて、実証的に検討した。日本の大企業と中企業から、新製品開発のアイデア創出段階にある41のチームからデータを収集した。分析の結果、ダイバーシティはチームの社会的統合と負の関連があり、また社会的統合はチームの創造性と正の効果があった。また、リーダーの普遍的-多様的志向による調整効果が見られた。普遍的-多様的リーダーのもとでは、社会的統合とチームの創造性の関係が弱くなり、結果として、ダイバーシティが創造性を下げる効果が弱くなった(図1)。
政策提言
多様な人材を採用し、それぞれが活躍できる場を設けていくことは、日本経済の更なる発展のために必要不可欠であることはいうまでもない。しかし、多様な人材の採用を進めるということは、それぞれが持つ価値観や考え方も異なるため、チームの価値観が多様化することも意味する。本研究の結果からも明らかなように、チームの価値の多様化は、チーム・パフォーマンスを出す上で重要なチームの社会的統合に強い負の影響を与える。そのため、ダイバーシティ経営によって企業業績、ひいては日本経済を活性化するためには、多様な人材の量の増加だけを進めるのではなく、同時に、多様化したチームをいかにマネジメントしていくのかということについても戦略的に考えていく必要がある。
このことに対する具体的なアクションとして、本研究から見られるのは、リーダー育成の重要性である。多様化したチームのパフォーマンスを高めるためには、チームをまとめるリーダーの人間的特性が鍵となる。とくに、さまざまな価値観を持ったチーム・メンバーの類似点と相違点の両方を見いだし(普遍的-多様的志向)、チーム・メンバーが持ち寄るさまざまな意見をイノベーションにつなげることができる能力をリーダーに育成することが要といえよう。