執筆者 | 角谷 快彦 (広島大学)/Mostafa Saidur Rahim KHAN (名古屋大学) |
---|---|
研究プロジェクト | 少子高齢化における家庭および家庭を取り巻く社会に関する経済分析 |
ダウンロード/関連リンク |
このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
マクロ経済と少子高齢化プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「少子高齢化における家庭および家庭を取り巻く社会に関する経済分析」プロジェクト
本稿は金融リテラシーが老後の不安を軽減するかを検証したものである。まず、我々は「金融リテラシーの高い人は将来のための適切な蓄財行動を取ることで、不確実性に対処するので、老後の不安は小さくなる」との仮説を立て、次に大阪大学が実施した「くらしの好みと満足度についてのアンケート調査」結果から、40歳から65歳までの被験者1717人の回答を用いて、金融リテラシーは老後の不安を軽減するという仮説を検証した。
結果は表1に示す通りであり、マイナスの変数は老後の不安の低さと関係があることを意味する。金融リテラシーは老後の不安を有意に軽減するものであった((1)列参照)。そして、この結果は、被験者の年齢、性別、教育年数、婚姻状況、家計資産、老後の生活費における年金のカバー率(予測)、子どもとの同居、健康維持のための運動習慣の変数をコントロールした後でも変わらなかった((2)列参照)。なお、金融リテラシー以外で、老後の不安を軽減させたのは、年齢の高さ、資産の大きさ、配偶者がいること、老後の生活費における年金のカバー率の高さ、であった。
この結果から本研究は、2つのチャネルから金融リテラシーが老後の不安を軽減すると解釈する。1つは、金融リテラシーは貯蓄や投資のより適切な決定を可能にするので、資産蓄積が進み、不安が軽減されること。もう1つは、金融リテラシーの高い人はリスクと不確実性を的確に認識するので、老後の不確実性により適切に対処できること、である。
本研究は重要な政策的含意を持つ。すなわち、金融リテラシーは老後の不安を軽減するので、早期の金融リテラシー教育をより積極的に普及することで人々の不安を和らげることができるといえる。
(1) コントロール変数なしの推定結果 | (2) コントロール変数ありの推定結果 | |
---|---|---|
金融リテラシー | -0.323 (-3.46)*** |
-0.175 (-1.72)* |
男性ダミー | 0.023 (0.43) |
|
年齢 | -0.021 (-5.41)*** |
|
教育年数 | -0.008 (-0.63) |
|
持ち家ダミー | -0.139 (-1.57) |
|
家計資産 | -0.003 (-2.75)*** |
|
老後の生活費における年金のカバー率(予測) | -0.208 (-1.91)* |
|
配偶者有ダミー | -0.265 (-3.23)*** |
|
子どもと同居ダミー | 0.107 (1.78)* |
|
運動習慣有ダミー | -0.055 (-1.01) |
|
/cut1 | -1.911 | -3.526 |
/cut2 | -1.093 | -2.685 |
/cut3 | -0.359 | -1.928 |
/cut4 | 0.773 | -0.764 |
Number of obs. | 1717 | 1717 |
Log likelihood | -2429.227 | -2386.639 |
Pseudo R2 | 0.0025 | 0.0199 |
LR chi2 | 11.96 | 97.13 |
(注)カッコ内はt値。* p < 0.1, ** p < 0.05, *** p < 0.01。 |