ノンテクニカルサマリー

東アジアにおける電子部品の流れに関する考察

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

マクロ経済と少子高齢化プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「East Asian Production Networks, Trade, Exchange Rates, and Global Imbalances」プロジェクト

アジア域内における電子部品の貿易額は、2014年には3000億ドルに達し、電子部門の中間財の貿易量は、2001年から6倍に増加した。図1が示すように、主要な輸出国は台湾と韓国である。両国に加え、電子部品貿易における中国のシェアが拡大する一方、東南アジア諸国連合(ASEAN)のシェアは縮小している。

本稿では、拡大している電子部品貿易について分析を行った。電子部品の流れは基本的にいくつかの要因に左右される。半導体などの電子部品は、コンピュータ、携帯電話、消費者向け電子製品の主要な材料であり、東アジアのこうした最終財の輸出額は、2014年には7500億ドルに達している。つまり、アジアで生産されるタブレットPC、スマートフォンなどの電子機器に対する域外からの需要が、域内の電子部品貿易を主にけん引している。また、集積回路、加速度計などの電子機器に用いられる材料も高度で、技術は絶え間なく進歩している。そして、輸出をけん引する2つ目の要因は国の技術レベルである。電子部品の組み立てには巨額の資本投資が必要であり、マイクロプロセッサーの組み立てに使用されるコピー機サイズの機械は、1台で5000万ドルにものぼる。このため、資本投資によって電子部品の生産量が拡大する可能性がある。さらに、外国直接投資(FDI)によって優れた技術が新興国に伝わることにより、高度な製品の生産が促進される。

最後に為替レートも、2つの方法で電子部品輸出の流れに影響を及ぼす可能性がある。第1に、輸出国の通貨下落は輸出される中間財のドル建て価格の低下につながり、ひいては最終電子製品のドル建て価格の低下と輸出量の拡大につながる。第2に、アジアのある輸出国の通貨が下落すれば、近隣諸国と比較して相対的に価格競争力が向上し、電子部品輸出のシェアの拡大につながる。

本稿では、アジアのサプライチェーン内の国の電子部品輸出の水準とシェアについて分析した。輸出水準の上昇は、各国がサプライチェーンのパートナー国向けに輸出する加工・再輸出用の部品が増加していることが背景にあり、域内の協力関係を反映している。輸出シェアの増減は、各国の市場シェアが東アジア諸国に対し相対的に拡大・縮小することを意味し、域内の競争関係を反映している。

分析の結果、域内の電子部品貿易と東アジアから域外向けの最終電子製品の輸出との間には緊密な関係があることがわかった。また、ストックベースのFDIが東アジア諸国の貿易水準に影響を及ぼす。すなわち、FDIは、アジアのバリューチェーンを細分化する。また、資本集約度が電子部品輸出のシェアに影響を及ぼす。電子部門のバリューチェーンにおいて韓国と台湾が果たす役割が増大した理由の1つとして、工場と設備に多額の投資を行ったことが挙げられる。また、為替レートの下落も、各国の電子部品輸出のシェアと水準を大幅に上昇させる。

以上の結果から、政策立案という観点で日本が学ぶべき教訓がいくつかある。第1に、FDIは近隣諸国が域内バリューチェーンに参加することを後押しするということである。東アジアのバリューチェーンへの参加は技術移転と技術開発につながることから、この分析結果は、政府開発援助(ODA)戦略を策定する上で役立つだろう。2つ目は、中国、韓国、台湾は域内バリューチェーンにおける日本の「同志」であるだけでなく、先進技術産業において、以前にも増して強力な競合相手であるということだ。日本の政策立案者は、電子産業を促進する方策(研究開発の助成など)を考えると同時に、電子産業におけるレイオフや混乱に備えるべきかもしれない。3つ目は、同地域の為替レートは電子産業にとって極めて重要であるということである。電子産業の重要性を考慮すると、為替政策を立案する際、または近隣諸国と為替レートについての政策議論を行う場合には、相当の注意が求められる。(注1

図1:地域全体に占める各国経済の電子部品輸出のシェア
図1:地域全体に占める各国経済の電子部品輸出のシェア
出典:CEPII-CHELEMデータベース
注:数字は中国、日本、マレーシア、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、タイ向けの各国の輸出シェアを示す。
脚注
  1. ^ 当然のことながら政策立案者は、為替レートが及ぼす影響は電子部門だけではなく、経済全体に及ぶことを考慮すべきである。