執筆者 | Lorenzo CALIENDO (Yale University)/Maximiliano DVORKIN (Federal Reserve Bank of St. Louis)/Fernando PARRO (Federal Reserve Board) |
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研究プロジェクト | 組織間の経済活動における地理的空間ネットワークと波及効果 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
地域経済プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「組織間の経済活動における地理的空間ネットワークと波及効果」プロジェクト
アメリカにおける中国からの輸入は、2000年から2007年の間に2倍以上となった。同時期、アメリカでは製造業における雇用が相当量減少し、一方で建設やサービスといった他のセクターでは雇用量の増加が見られた。本研究はこの客観的事実を踏まえ、安価な輸入財が、製造業ならびに経済全体に対してどのように影響を与えるのか、数量的分析を行った。とりわけ、短期と長期それぞれについて、安価な中間財を入手可能となったことによる便益、および産業間、国内の地域間における、輸入競争の激化によるコストについて、数量的分析を行った。また本分析では、産業間および地域間における雇用の再分配に対する影響の説明を試み、この再分配においては費用および時間を要することを踏まえ、短期と長期それぞれにおける貿易のショックの影響について、研究を行った。
本研究結果によれば、中国からの輸入競争の激化によって、製造業では全雇用量に対して0.6%のシェアの減少が見られた。これは雇用数にして約100万人分の職に相当し、また長期的な傾向からは説明されない製造業での雇用量の変化分のうち、約50%に相当する。しかし同時期、この中国のショックから、労働市場間で非常に異質な影響によって、アメリカ全体では厚生が上昇している。図は、この中国のショックによるアメリカ各地での厚生への影響を示している。中国からの輸入の増加により、一部地域は雇用と労働市場の崩壊でかなりの影響を受けているものの、消費者の利益と輸出機会の享受によって、結果としてほぼすべての地域で便益のほうが上回っていることが分かる。
他のいくつかの研究においても、2000年から2007年にかけてのアメリカにおける製造業での雇用量の減少の相当数は、中国経済における技術の改善あるいは貿易費用の削減に伴う、中国からの貿易量の増加による結果であると報告されている。
本研究の本分野における貢献は、異なる各地域の労働市場に対し集計せずに、雇用、製造、および厚生への影響を分析することが可能となるような、新たな数量的モデルを構築した点である。また重要な点としては、経済的、かつ数量的経路が異なれば、貿易のショックは一国内でも産業、地域間でまた違った影響を及ぼしうるが、我々のフレームワークでは、こうした異なる経路を組み込んだものとなっている。たとえば、輸入による競争にさらされた産業への影響、および安価な中間財として便益を受ける産業への影響、そしてこれらの異なる効果が労働者の産業および地域間での移動にどう影響するか、などである。まとめると、我々の手法および本研究は、異なる地域の各労働市場に対して、貿易のショックがどう影響するのかという研究において、産業連関、地域間貿易、および労働移動を組み込んだものである。