執筆者 | Andrew B. BERNARD (Tuck School of Business at Dartmouth)/Andreas MOXNES (University of Oslo)/Karen Helene ULLTVEIT-MOE (University of Oslo) |
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研究プロジェクト | 組織間の経済活動における地理的空間ネットワークと波及効果 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
地域経済プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「組織間の経済活動における地理的空間ネットワークと波及効果」プロジェクト
国際貿易は、輸入企業と輸出企業との数多くの取引の集計として成り立っている。国と国が貿易を行っているのではなく、企業間の取引の結果ということである。これは当たり前のことと思われるかもしれないが、政策やショックの影響の決定要因として、この企業間のつながりがどれほど重要であるかは、よく分かっていない。本論文では、輸出企業と輸入企業がどのように相互に係わり合うのか、そしてその結果として貿易にどのような影響を及ぼすかについて分析を行った。
ノルウェーの貿易取引についてのデータセットは、ノルウェー企業の輸出取引について、すべての輸出相手国における個々の買い手と結びつけることができ、同時に、ノルウェーの輸入企業に対するすべての売り手企業も分かる貴重なデータである。我々はまず、輸入企業と輸出企業のつながりについて、以下の一連の観測事実を確認した。まず、貿易総額の変動の大半は、輸入企業の数の変化から説明できる。また、輸出企業1社あたりの輸入企業数の分布と、輸入企業1社あたりの輸出企業数の分布からは、つながりが少ない多数の企業と、つながりを多く持つごく少数の企業によって形作られていることが分かった。
大きな輸出企業は、より多くの顧客を得ることができる。そして、あまり直感的ではない事実であるが、多くの顧客を持つ輸出企業と、あまり顧客を持たない輸出企業とを比べると、その買い手の売り上げの分布には差がないことが分かった。つまり、大きな輸出企業というのは、単により多くの顧客を持っているがゆえに規模が大きいのである。よって大きな輸出企業は、より多くの、そしてより多様な顧客を持つことが分かる。これにより、輸出企業の取引する買い手の数が多くなるほど、その平均的な顧客が取引している売り手の数は少なくなる傾向にあるという、負のマッチング関係(negative assortative matching)が売り手と買い手の間に存在することとなる。図1はこの関係を示しており、横軸はノルウェーの輸出企業1社あたりの買い手企業数を、縦軸はその平均的な顧客が取引する売り手の数(それぞれlogを取り平均値を引いたもの)を表す。傾きは負で、つまり、つながりを多く持つ売り手ほど、平均的にはつながりが少ない買い手と取引していることが分かる。
しかしながら、我々がより焦点をあてたいのは、輸入企業の数よりも、潜在的な輸入企業の、輸出先の国による異質性が、貿易の流れにどう係るかということである。すべての国の輸入企業に異質性があるのはもちろんだが、市場ごとにもかなり違いがある。ノルウェー企業の先進国への輸出は、ごく少数の買い手に取引がかなり集中している一方、途上国への輸出は、あまり集中していない。この輸入企業のばらつきの違いが、市場へのアクセスにショックが生じたとき、ノルウェーの輸出企業にどう影響するのかを分析した。
製品を輸出するにあたり、企業はその買い手を見つけるために、費用がかかるプロセスを踏む必要がある。われわれは買い手と売り手に異質性を導入した理論モデルを構築した。このモデルでは、輸出企業は買い手を見つける際に、関係特殊的費用(relation specific cost)を負担する必要がある。関係特殊的費用というのは、たとえば役所の手続きや契約の合意、個々の買い手の条件に合わせた製品のカスタマイズなどにかかる費用である。
このモデルは多くの観測事実と整合的で、また同時に、国際貿易における買い手の異質性の役割について、検証可能な一連の示唆を得ることもできた。理論から得られた示唆と整合的な重要な結果として、売り手ごとに輸出にばらつきがあることや、ショックに輸出がどう反応するのかを説明するにあたって、買い手側の異質性が重要であるということがわかった。具体的には、比較可能な輸出相手国ごとの市場アクセスへのショックに対し、企業レベルの輸出がどう反応するかは、その国の企業規模のばらつきによって体系的に異なり、輸出先の国の買い手のばらつきが小さいほど、ショックに対する輸出の反応が大きくなる。
この研究からの示唆としては、貿易自由化後の貿易の増加は、需要側の性質に依存するということである。さらにこの研究から、関係特殊的費用が重要であることも示され、たとえば貿易の振興を含む政策手段として、関係特殊的費用などを削減することで、企業の輸出が促されうることが分かった。