執筆者 | W. Miles FLETCHER III (University of North Carolina at Chapel Hill)/武田 晴人 (ファカルティフェロー) |
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研究プロジェクト | 経済産業政策の歴史的考察―国際的な視点から― |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
政策史・政策評価プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「経済産業政策の歴史的考察―国際的な視点から―」プロジェクト
1997年の消費税率引き上げ(3%→5%)は、1990年以来の長引く経済的停滞からの回復の出鼻をくじき、日本をさらなる景気後退に投げ込み、今日にまでつづくデフレ圧力下の低迷をもたらしたと批判されている。本論文は、この消費税率引き上げに関わる経済団体の役割に注目し、消費税制度導入以来の経済界の主張を経済団体連合会に焦点をあてながら検討している。
消費税の導入の背景には、財政赤字の拡大に対処して財政の再建を図るために税収の増大を図ることが企図されていた。この財政均衡への努力は1980年代に規制緩和や民営化を通して「小さな政府」を実現することによって着手されたが、そのような歳出の削減策では不十分だと認識されるようになった。その理由の1つは高齢化社会の到来にともなう社会保障関連経費の増大が見込まれたことであった。このような要因から消費税の導入、さらにはその税率引き上げが追求されてきた。
経団連の主張は、財政再建を実現するために考えられるいくつかのシナリオを示していた。
1970年代にはじめて大型の間接税が提案されたときには、財政拡張による経済成長が税収の増大によって財政再建につながるという考え方に、経団連は立っていた。1980年代前半には、増税による歳入増加を図る以外には再建は難しいと考えるようになった。
本論文が主張するのは、増税による財政再建というシナリオが、その問題に限定して考えれば最適な選択肢であったとしても、消費増税が景気後退につながり、不況が長期化することによって将来の税収を損なう危険性について十分な考慮がない、短期的なものであったことである。
しかも、経済界のこのような主張は、不良債権処理に対して公的資金投入を求めることによって財政状態を悪化させることもいとわないものであったし、増収の必要性を説きながら、同時に法人税については減税を求めるという首尾一貫性のない矛盾をはらんだものであった。したがって、経済界の主張は、長期的なゴールに向かって体系的な政策を主張していたわけではなかったと評価すべきものであった。
消費税率の引き上げが日程に上っている現在、経済界を含めてこの問題に対する国民的な合意が形成されることが必要であることは多言を要しない。他方で、国際的な視点で見ると、中国経済の減速や米国の景気停滞、EUの統合の危機など、深刻な経済問題を抱えているのは日本だけではない。このような状況の変化に応じて、どのような政策構想のもとで消費税引き上げという選択肢を活かすのかどうかは、さまざまなステークホルダー(さまざまな利害集団)の意見を聴きながらも、短期の対策と中長期の目標達成とを両立しうるような構想力を持つことにかかっている。