ノンテクニカルサマリー

病院による高度医療技術の導入:日本の急性心筋梗塞患者の診療記録を使用した分析

執筆者 杉原 茂 (内閣府経済社会総合研究所)/一宮 央樹 (東京工業大学)/乾 友彦 (ファカルティフェロー)/伊藤 由希子 (東京学芸大学)/齊藤 有希子 (上席研究員)/五十嵐 公 (東京医科歯科大学)/川渕 孝一 (東京医科歯科大学)
研究プロジェクト サービス産業に対する経済分析:生産性・経済厚生・政策評価
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「サービス産業に対する経済分析:生産性・経済厚生・政策評価」プロジェクト

問題意識

先進的な医療技術の導入は医療の効果を大きく改善することが見込まれるものの、その技術の採用には相応のコストがかかる。そのため、医療における先進技術は、その有効性とコストとを考慮したうえで効率的に活用することが必要不可欠である。

本研究では急性心筋梗塞患者に用いる、IVUS (血管内超音波検査)、DES (薬剤溶出性ステント)、IABP (大動脈内バルーンパンピング)の3つの先進医療技術についての分析を通じて、先進技術の有効性とその選択について研究した。まず、技術選択の効率性を明らかにするために、各病院において先進技術の採用傾向を計測し、患者の死亡率との関係を分析した。また、技術選択の特徴を明らかにするため、技術の採用が近隣の病院を経由する病院間のネットワークによって伝播する、医療の経営体制が技術採用に大きな影響を及ぼす、という2つの仮説についても検証を行った。

結果の概要

2004年から2010年の急性心筋梗塞患者のDPCデータを使用し、治療に用いられた3つの先進医療技術 (IVUS, DES, IABP)の有効性、技術採用傾向の伝播、そして病院の経営体制による先進技術採用傾向の違いについて統計分析を行った。先進技術採用の有効性を検証するため、病院ごとの先進技術の採用傾向と患者の死亡率との関係を図示したものが図1である。病院ごとに技術採用傾向は大きく異なり、技術採用傾向の高い病院では患者の死亡率が低くなるという関係性が見られることから、先進技術の採用は確かに医療の質を向上させていることが明らかとなった。次に技術採用傾向の伝播について分析したところ、技術の採用が近隣の病院を経由する病院間のネットワークによって伝播する、という地理的な技術伝播はほとんど見られなかった。最後に病院の経営体制が技術採用傾向に与える影響を分析したところ、ある病院グループに属する病院ではその他の病院と比べ技術採用傾向が低いことが示され、技術採用傾向は地理的なネットワークよりも経営体制による影響が大きいことが分かった。

図1:病院ごとの技術採用傾向と患者の死亡率
図1:病院ごとの技術採用傾向と患者の死亡率

ポリシーインプリケーション

医療の質の向上は望ましいことであるが、本研究で対象とした急性心筋梗塞に対する3つの先進技術は、その効果が明らかにされているにもかかわらず病院間で採用傾向にばらつきがあることが判明した。その理由の1つとして病院の経営体制による影響が挙げられ、病院の経営判断により、医療の質の向上が見込まれていたとしてもその技術の採用が見送られている可能性が示唆された。また、技術採用の近隣病院への波及が見られなかったことから、先進技術が経営的な要因等から導入が阻害される可能性があり、また近隣の病院間での情報交換が必ずしも有効でない可能性も考えられることから、先進技術に関する有効性等に関する情報発信などの政策支援が必要であるものと考えられる。