執筆者 | 藤原 一平 (ファカルティフェロー)/脇雄 一郎 (クィーンズランド大学) |
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研究プロジェクト | 高齢化等の構造変化が進展する下での金融財政政策のあり方 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
社会保障・税財政プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「高齢化等の構造変化が進展する下での金融財政政策のあり方」プロジェクト
中央銀行が、将来の経済情勢に関する私的情報(以下、私的ニュースと呼ぶ)を得た場合、これを民間部門に公表すべきであろうか?
標準的なニュー・ケインジアン・モデルによると、そうした私的ニュースを公表しないことにコミットすることが最適となることがわかった。この結果は、特定なモデル設定に大きく依存することなく、コスト・プッシュ・ショック、金融政策の目標の変化、需要ショック(自然利子率ショック)に関する私的ニュースのケースや、ゼロ金利制約に直面するケース、資本を含むケースなどでも成立することもわかった。
直観的でない結果にみえるが、これが得られるメカニズムは極めて単純である。標準的なニュー・ケインジアン・モデルで仮定されているように、価格の粘着性から価格設定がフォワード・ルッキングなものとなるなか、中央銀行がインフレ率と産出量ギャップの変動の最小化を試みる経済を考えてみよう。ここで、民間部門が将来のショックに関する情報をより知ることができるようになると、インフレ期待はより大きく変動するようになる。より大きく変動するインフレ期待は、ニュー・ケインジアン・フィリップス曲線において、追加的なコスト・プッシュ・ショックのように働くことから、結果として、インフレ率、そして、産出量ギャップの分散も大きくなってしまう。
結果の解釈には注意が必要である。これまでの理論的研究が示唆してきた通り、中央銀行が歴史依存型の政策ルールにコミットすることを通じて、経済主体が中央銀行の行動を予測しやすくすること(いわゆる、オデッセイ・フォワード・ガイダンス)が望ましいという結果は変わらない。本稿が主張しているのは、民間部門の予測精度を高めるような私的ニュースを中央銀行が公表すること(デルフィー・フォワード・ガイダンス)が、経済厚生を低める可能性がある、ということである。
以下の図は、標準的なニュー・ケインジアン・モデルにおいて、x期先(x軸)のコスト・プッシュ・ショックを知った場合に、経済損失(経済厚生の逆数、y軸)がどのように変化するかを示したものである。まず、(1)左図から、先の情報を知れば知るほど、経済厚生は悪化すること、がわかる。一方で、(2)右図から、コミットメントからのゲイン、すなわち、歴史依存型の政策ルールの有効性が、将来のショックに反応する経済になればなるほど、高まることもみてとれる。