ノンテクニカルサマリー

政策の不確実性と改革先送りのコスト:高齢化の進む日本のケース

執筆者 北尾 早霧 (慶応大学)
研究プロジェクト 高齢化等の構造変化が進展する下での金融財政政策のあり方
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

社会保障・税財政プログラム (第三期:2011~2015年度)
「高齢化等の構造変化が進展する下での金融財政政策のあり方」プロジェクト

高齢化が進行する中で賦課方式の年金制度を維持するには給付額の引き下げあるいは増税が避けられない。改革の必要性は共通認識として存在するものの、実際の改革の時期や具体的な内容については大きな不確実性が存在する。本研究では高齢化が進む経済において年金改革に関する政策の不確実性を明示的に世代重複型一般均衡モデルに組み入れ、政策の不確実性および改革の先送りによる経済的および厚生的費用を日本を対象として計量分析した。

2004年の年金改革で定められたマクロ経済スライドが順調に機能すれば年金の所得代替率は20%程度低下すると予測されている。一方先行研究によれば税負担の大規模な増加を抑えるには長期的にはさらに踏み込んだ削減が必要になるとされる。35%程度の削減が2020、2030、2040年のいずれかの年からスタートすると仮定した場合、必要とされる税負担は改革が10年遅れるごとにピーク時の消費税にして約5%程度ずつ上昇する。改革の先送り、改革規模の縮小は現在の中高齢者にとっては厚生効果的にプラスとなるがそれは同時に若者および将来世代の負担増と厚生の悪化を意味し、大規模な世代間のトレードオフが生じることが明らかとなった。さらに不確実性そのものは貯蓄と資本の増加を促し、実質金利の低下、賃金の上昇につながることが示された。

図1:改革先送りの可能性による年齢別の厚生への影響:消費の割合(%)で計った効用の変化
図1:改革先送りの可能性による年齢別の厚生への影響:消費の割合(%)で計った効用の変化