1950年代の日本における設備近代化と生産性:鉄鋼業における「産業合理化」

執筆者 岡崎 哲二 (ファカルティフェロー)
是永 隆文 (専修大学)
研究プロジェクト 産業政策の歴史的評価
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策史・政策評価プログラム (第三期:2011~2015年度)
「産業政策の歴史的評価」プロジェクト

1950年代の日本経済は、戦前・戦時期から継承した設備の老朽化が進む中で、市場経済化と単一為替レートの設定にともなう国際競争の再開という課題に直面した。この状況下で通産省は、基幹的政策として「産業合理化」政策を実施し、その中心的な目標を鉄鋼・電力等主要な産業の設備近代化に置いた。この論文では、鉄鋼業に関する建設年別設備データをプラント別に構築し、あわせてプラント別の投入・産出データを整備することによって、1950年代における設備ビンテージの変化、設備ビンテージが生産性に与えた影響、および設備更新に対する日本開発銀行融資の効果を検証した。対象としては、鉄鋼設備近代化の中心的対象とされた圧延設備(熱間圧延設備)に焦点を当てた。その結果、1950年代に圧延設備のビンテージが大きく低下したことが確認されるとともに、生産関数の推定を通じてビンテージの低下が生産性を大幅に向上させたことが明らかになった。下の表は設備のビンテージを変数(V)として含む生産関数の推定結果の一部を示している。

Vintage生産関数の推定結果:2段階最小二乗法
変数名 ケース1 ケース2 ケース3 ケース4
lnL 0.636
(2.58)
*** 0.656
(2.68)
*** 0.503
(2.40)
** 0.524
(2.52)
**
lnE 0.237
(1.49)
0.233
(1.47)
0.306
(2.18)
** 0.300
(2.15)
**
lnK 0.488
(7.88)
*** 0.492
(8.04)
*** 0.542
(10.21)
*** 0.546
(10.41)
***
V -0.014
(-2.01)
** -0.014
(-2.05)
** -0.013
(-2.03)
** -0.013
(-2.05)
**
製鋼ダミー -0.046
(-0.38)
-0.021
(-0.18)
-0.138
(-1.23)
-0.113
(-1.04)
分塊・大型ダミー -0.900
(-4.48)
*** -0.869
(-4.48)
*** -0.880
(-5.06)
*** -0.852
(-5.04)
***
厚板・薄板ダミー -0.355
(-1.80)
* -0.366
(-1.85)
* -0.308
(-1.77)
* -0.317
(-1.83)
*
線材・帯鋼ダミー 0.048
(0.31)
0.070
(0.49)
0.077
(0.56)
0.105
(0.81)
熱間ストリップダミー 0.310
(1.31)
0.263
(1.20)
0.226
(1.15)
0.189
(1.02)
鋼管ダミー -0.220
(-1.04)
-0.246
(-1.18)
会社合併ダミー 0.519
(3.69)
*** 0.528
(3.60)
*** 0.393
(2.71)
*** 0.385
(2.54)
**
工場合併ダミー 0.874
(5.23)
*** 0.876
(5.22)
*** 0.844
(5.35)
*** 0.846
(5.31)
***
所属変更ダミー 0.483
(4.83)
*** 0.496
(5.01)
*** 0.445
(4.66)
*** 0.457
(4.83)
***
定数項 -2.368
(-1.45)
-2.440
(-1.50)
-3.512
(-2.47)
** -3.554
(-2.50)
**
No. of Obs. 185 185 211 211
NO. of Unit 91 91 101 101
R2 0.8019 0.8057 0.8173 0.8201
Test of endogeneity 4.517
(2,90)
** 4.618
(2,90)
** 4.838
(2,100)
*** 4.940
(2,100)
***
パラメータ推定量の下の( )内は各工場をclusterとして計算したcluster-heteroskedasticity-robust標準誤差に基づくt値であり、***, **, *は有意水準1%、5%、10%で統計的に有意であることを示す。

圧延設備は、第二次世界大戦期の「生産力拡充計画」における重点度が他の鉄鋼設備と比較して相対的に低かったため、戦前の設備が多く残されていた。またこの間にアメリカを中心にストリップ・ミルを核とする大きな技術進歩が進んだため、内外の技術格差が大きく開いていた。こうした事情が設備更新の生産性効果を大きなものとしたと考えられる。さらに、鉄鋼合理化計画における主要な政策手段の1つとされた日本開発銀行融資について平均トリートメント効果を推定した結果、設備能力の増加と設備ビンテージの低下について有意にプラスの効果を与えたことが確認された。