ノンテクニカルサマリー

消費内生化産業連関モデルによる六次産業化事業の地域経済効果―沖縄県を事例に―

執筆者 阿久根 優子 (麗澤大学)/石川 良文 (南山大学)/中村 良平 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 経済グローバル化における持続可能な地域経済の展開
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「経済グローバル化における持続可能な地域経済の展開」プロジェクト

農商工連携による六次産業化は、地方において低迷を続ける一次産業の振興と地域活性化効果を併せ持つ産業振興の切り札として各地で実施され10年以上が経過した。その間、国や地方自治体からもさまざまな支援策が講じられてきた。一般に、六次産業化は農水産物の加工・流通・販売といった一次産業、二次産業および三次産業の連携として捉えられるが、本稿ではその核心は市場財として扱われないような地域内の未使用の資源や副産物を有効に利用したイノベーション(新結合)による価値創造にあると考える。

たとえば、現地調査した沖縄県の六次産業化事業例には、飼料製造業での飲食店の食品残渣の利用や、生産効率の低さから自家消費されていた在来柑橘類の希少性をアピールした柑橘果汁といった付加価値の向上の工夫が観察された。これらのイノベーションは、必然的に1つの産業内で完結せず、一次産業と二次産業、三次産業の連関構造内で生じており、結果として六次産業化としてみることができよう。

このような六次産業化が地域内で行われたならば、創出された付加価値の地域外への流出を防ぎ、所得の上昇、消費の増加そしてそれに伴う更なる生産誘発といった地域全体での連鎖的な付加価値向上が期待できる。したがって、六次産業化政策は、地域に存在する非市場財の価値創造を複数の業種が連携して行うことにより、地域経済全体の持続性の強化を目指した政策と解することができよう。こうした特徴をもつ政策の有効性を示すためには、経済効果として産業連関を含めつつ域内の所得増加効果を明らかにする必要がある。

本稿ではその分析枠組みとして、所得から消費に転じそれが再び最終需要となって生産を誘発するという循環を考慮した消費内生化産業連関モデルと、六次産業化事業を分析するためのいくつかの改良点を提示した。その結果、生産誘発係数の比較から、伝統的産業連関モデルでの簡便的手法よりも消費内生化モデルの方が波及効果は10%~30%程度高く評価された。既存の簡便法で評価を行った場合、これらを過少評価することになる。したがって、六次産業化のような付加価値が向上する事業を想定した地域経済への効果測定は、消費を内生化したレオンチェフ逆行列によって行う方が適切であるといえる。

しかしながら、六次産業化事業で生産される財は、原材料の栽培方法、商品の成分、地域性によって既存の商品からの差別化を図ったものであり、市場としては既存の生産活動で生産されている財と競合する。沖縄県の例では、アグー豚と豚肉、カーブチージュースとシークワーサージュースといったものである。そこで、上記の消費内生化モデルを用いて、六次産業化事業の生産活動と競合する既存の生産活動の需要が六次産業化事業に属する生産活動に10%移行した場合の地域経済効果を試算した。その結果、対象とした畜産、果樹および野菜の六次産業化事業のすべてで、六次産業化事業と競合する既存の生産活動には負の影響があるものの、地域全体としての経済効果はそれを上回り、農商工間で連携した高付加価値化事業への移行は地域経済に正の影響をもたらすことが確認された。

ただし、ここで行った試算は、六次産業化として成功していることが前提であるが、アンケートやヒアリング調査の中では、事業の持続性に課題をかかえる事業者も少なくなかった。

そこで、最後に、現地調査をもとに六次産業化政策を行う面での課題を整理したい。まず、既存の六次産業化事業は、表に示すように事業の採算面、原材料調達において二極化する傾向が顕著にみられた。

表:六次産業化事業の採算性・事業性と原材料調達状況
(1) 採算性・事業性(2) 原材料の安定的な調達
回答数割合(%)回答数割合(%)
全く問題ない215431
多分問題ない646538
不透明21518
少々不安18215
かなり不安21518
合計1310013100

事業の存続性に不安を持つと答えた事業者に対するヒアリングでは、「事業の申請がきっかけとなり、まず地域にあるものを利活用しようと考えた」や「支援を受けるうえで雇用をしなければいけないが、それを賄えるほどの売り上げはなく、補助金がなくなれば雇用継続は難しい」「販売ルートが脆弱で現在も模索中」という回答があった。一方で、採算のとれている事業者は、事業開始前に取引の引き合いを受けたり、既存の生産ノウハウや販売ネットワークを活用していた。これらの事業者は、一次産業、二次産業および三次産業の生産活動のいずれか複数を既に自身の事業の中で行っていた。このため、六次産業化政策で認定された事業は既存事業に追加する形で行われていたといえ、また、農産物生産およびその加工を各生産者に委託し、自身は製品プロデュースと販売に重点を置いた事業者もいた。後者は、他の研究でも指摘されている各生産者をそのエキスパートとして位置付け、それらを結びつけるコーディネータの重要性を示した事例である。このように、六次産業化事業の展開には種々の形があるものの、市場財でないものに価値を見出すこと、その価値に対する需要の把握及び販売ルートの設定といったすべての点を事業開始と時間差なく成立することが事業存続として不可欠であろう。