ノンテクニカルサマリー

空間経済学に基づくストロー効果の検証~明石海峡大橋を事例として~

執筆者 猪原 龍介 (亜細亜大学)/中村 良平 (ファカルティフェロー)/森田 学 (青森中央学院大学)
研究プロジェクト 経済グローバル化における持続可能な地域経済の展開
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「経済グローバル化における持続可能な地域経済の展開」プロジェクト

本研究は、空間経済学の枠組みのもと、ストロー効果を、2地域間輸送費の低下により一方の地域の出荷額が他方の地域と比べて「相対的に減少する」ことと定義した上で、ストロー効果の発生可能性について都道府県データを用いて定量的に検討したものである。

本研究の枠組みでは、輸送費の低下により生じる市場拡大効果と競争拡大効果の大小関係により出荷額の増減が生じる(図1参照)が、地方都市の婦人・子供服小売店・百貨店、特に、一部の買回品や専門品を扱う店では、輸送費の低下による競争拡大効果が市場拡大効果を上まわる結果、ストロー効果が発生する可能性が高く、その影響も無視しがたい大きさであることが示唆されている。対照的に、地方の野菜農家では、輸送費の低下により生じる市場拡大効果が競争拡大効果を上回り、輸送時間の短縮による配送地域の拡大が出荷額の増加をもたらす可能性が指摘されている。

図1:ストロー効果の発生条件
図1:ストロー効果の発生条件

規模の経済や集積の経済が顕著な現代社会においては、企業は生産拠点を集約化するインセンティブを持つ。そして、都市部に立地することで競争力が強まるような都市型産業は、都市部への集中化の傾向を強めることになる。実際、分析では、婦人・子供服小売業・百貨店業において東京都との間の輸送費の低下により相対出荷額の低下が生じる可能性が高い道府県が43道府県にものぼっており、交通インフラの整備により東京への集中が進む可能性が示唆されている(図2参照)。

図2:東京都との間の輸送費低下によるストロー効果の発生可能性
(婦人・子供服小売業・百貨店業)

図2:東京都との間の輸送費低下によるストロー効果の発生可能性
※縦軸は、東京都と他地域の競争の激しさの違いを表しており、上にいくほど、東京都における競争の激しさが相手地域におけるそれを上回る度合いが大きくなる。一方、横軸は、東京都と他地域の市場規模の違いを表しており、右にいくほど、東京都の市場規模が相手地域を上回る度合いが大きくなる。競争の程度の違いと市場規模の違いを比較してみると、プロットされた点が45度線より上にある地域では競争の程度の違いが市場規模の違いを上回っているが、これは、ストロー効果の発生条件が満たされていることを意味する。なお、競争の程度の違いが500を超える地域については記載していない。

では、地方が持続可能な地域であり続けるためには何をすべきなのか? 今後も輸送費の低下が続くことを前提とすると、輸送費の低下が強みにつながる産業を見いだし、産業間で労働移動を促すことが必要であろう。ただし、そのためには輸送費の低下がもたらすインパクトの大きさを予測することが必要になる。本研究で用いた手法を用い、観光産業など成長分野として期待ができる産業について分析することも考えられよう。

もう1つ指摘したいのは、差別化の重要性である。ストロー効果が生じる場合、バラエティ間の代替性が高いほど、後背地に大規模市場を持つ地域に市場を奪われる可能性が増すことが指摘される。逆に考えれば、バラエティ間の代替性が低ければ、ストロー効果が生じてもその影響は少ないといえる。地域に立地する企業が、自身が提供する財と他の地域に立地する企業が提供する財との差別化の程度を高めることができれば、ストロー効果が発生してもその影響を弱めることができる。このことは、工夫次第で地方都市においても都市型産業が成立することを示唆している。