ノンテクニカルサマリー

人事方針と人事施策の関係が企業成長に及ぼす影響

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本における無形資産の研究:国際比較及び公的部門の計測を中心として」プロジェクト

本論文では、2011年と12年の2回にわたって経済産業研究所で実施された「無形資産に関するインタビュー調査」のデータを用いて、人的資源管理の内的整合性(internal fit)、つまり人的資源管理の上位概念である人事方針と下位概念である人事施策の適合、さらに人事方針間、人事管理施策間の適合が企業成長に及ぼす影響を明らかにした。

まず人事方針に注目すると、日本企業では(1)成果主義をとり、終身雇用を重視していない「成果主義型」、(2)成果主義をとらず終身雇用を重視している「終身雇用型」、(3)成果主義と終身雇用を同時に重視している「ハイブリッド型」といった3つのタイプが確認され、このうち「ハイブリッド型」が約半数を占めている(表1参照)。また「成果主義型」は小規模企業で非製造業が多く、売上高成長性が高いといった特徴が見られた。さらに、これら人事方針タイプ別に人事施策の取り組み状況をみると、人事施策スコア全体では「ハイブリッド型」が最も高いが、人事施策を成果主義型人事管理(成果主義に対応した処遇)と人材育成に分けた場合には、「成果主義型」で成果主義型人事管理のスコアが高く、「ハイブリッド型」で人材育成のスコアが高い。これは、企業が重視する人事方針によって、その下位概念である人事施策の内容が異なることを示唆する。

企業の人的資源管理と企業成長との関係をみると、第1に、人事方針および人事施策の要素のうち、成果主義と成果主義型人事管理の取り組みは企業の成長を促進するのに対して、終身雇用をとる企業、人材育成施策に積極的に取り組む企業では企業の成長性は低い。これらの結果から伝統的な日本の人事方針である終身雇用の限界や、長期的な観点から実施してきた人材育成が企業の成長に有効に機能していない可能性が示唆される。

第2に、成果主義と終身雇用といった2つの矛盾する人事方針の交互作用項と企業成長は有意な負の関係にあり、さらに人事施策の成果主義型人事管理は単独では企業成長と有意な正の関係にあるが、人材育成との交互作用項は有意な負の関係にある。つまり、人事方針、人事施策において内的整合性が実現されていない場合には企業の成長を阻害する可能性が高く、企業が人事方針、人事施策を検討する場合には、人事方針間の相互作用、人事施策間の相互作用の負の影響を十分に考慮する必要がある。

第3に、人的資源管理の上位概念である人事方針と人事施策の交互作用についてである。長期的な観点が強い終身雇用と人材育成の組み合せは、伝統的な日本企業の人事方針や人事施策の企業成長に対する負の効果を緩和するが、短期的な成果を求める成果主義と人材育成の組み合せは、企業成長への負の影響をさらに強めることが明らかになった。このことは、人事方針および人事施策のそれぞれのなかでの内的整合性に加えて、人事方針とそれに基づいて実施される人事施策との間に一貫性がない場合には、人事方針や人事施策の企業成長に及ぼす効果を逆に減退させることを意味する。

以上のことを踏まえると、企業の人的資源管理を考える際には、「人事方針間の相互作用」「人事施策間の相互作用」「人事方針と人事施策の相互作用」の負の影響を考慮する必要があり、人的資源管理において内的整合性が実現されていない場合には企業の成長を阻害する可能性がある。

また、伝統的な日本企業では、長期雇用を前提に長期的な視点で社員の成果を向上させることを目的とした企業内の人材育成に積極的に取り組んできた。しかし近年、長期的な成果よりも短期的な成果を重視する成果主義を導入する傾向が強まっており、短期的な視点から成果を向上させようとする成果主義の下では従来の日本企業の成長の源泉の1つであった人材育成の在り方が有効に機能しなくなっている。「ハイブリッド型」企業がインタビュー調査企業の約半数を占める現状を考えると、日本企業の成長を回復するためには従来型の企業内人材育成の在り方を再考する必要性が高まっている。

なお、今回はサンプルサイズの制約もあり、企業成長と人事方針、人事施策に関して十分な結果を得ることができなかった。人的資源管理と企業パフォーマンスとの関係を考察するためには、人事方針、人事施策を包括的かつ継続的に調査しデータを蓄積していくことが望まれる。

表1:成果主義と終身雇用のクロス表
終身雇用合計
はいいいえ不明
成果主義はい%53.015.70.268.9
度数213631277
いいえ%26.63.70.731.1
度数107153125
合計%79.619.41.0100.0
度数320784402
注)終身雇用:はい=「重視している」+「やや重視している」、いいえ=「重視していない」+「あまり重視していない」