ノンテクニカルサマリー

多様な正社員のスキルと生活満足度に関する実証分析

執筆者 久米 功一 (リクルートワークス研究所)/鶴 光太郎 (ファカルティフェロー)/戸田 淳仁 (リクルートワークス研究所)
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第三期:2011~2015年度)
「労働市場制度改革」プロジェクト

問題の背景

業務内容や勤務地を限定された正社員(いわゆる限定正社員) の活用は、家庭生活との両立や非正社員から正社員への転換の足掛かりとして期待されている。その一方で、現実には、働き方の限定性によって、スキルの蓄積の阻害、賃金の低下、ひいては、生活全般の厚生の低下が懸念されている。

そこで、本研究では、RIETIが行った「多様化する正規・非正規労働者の就業行動と意識に関する調査」(平成24年度)をもとに、正社員の多様な働き方、スキル、満足度の実態および関係を明らかにするとともに、その経済厚生を評価した。

分析に用いる変数

働き方の限定性が、(1)スキルに与える影響、(2)仕事満足度・生活満足度に与える影響について回帰分析した。働き方の限定性として、「残業がある」「配置転換・転勤がある」「業務が限定されている」「組織のラインから切り離されており、単独で業務遂行している」「スキルを高める機会はあまりない」などに当てはまるか否かのダミー変数を用いた。スキルの変数として、新人が本人の同じレベルになるまでの期間(習熟度)を用いた。仕事満足度や生活満足度は主観的な変数で0~10の値をとる変数である。

分析の結果

満足度の決定要因をみると、残業があることやスキルアップの機会がないことが、仕事満足度も生活満足度も損ねていた(図表1)。スキルを高める機会がないことは、男女を問わず、仕事満足度を有意に下げるが、男性は、プロジェクト的な仕事であること、女性は、ラインに組み込まれることがマイナスの要因となっており、仕事満足度の決定要因の男女の違いがみられた。

図表1:仕事・生活満足度の決定要因のまとめ(正社員のみ)
仕事満足度生活満足度
男性女性男性女性
残業がある
配置転換や転勤がある
業務が限定されている
業務の範囲が広い
(期限のある)プロジェクト的な仕事である
他人との調整があまりない
組織のラインから切り離されており、単独で業務遂行している
組織のラインに組み込まれている(上司の決裁を仰いでいる)
スキルを高める機会はあまりない
今より高いレベルのスキルを要する仕事を経験できる
注)符号は有意水準10%以下で有意を表す

働き方の限定性で毀損される仕事・生活満足度を金銭換算して評価したところ(図表2)、スキルを高める機会がないことは、仕事満足度と生活満足度の両方を毀損して、その大きさ(金銭換算した補償額)はそれぞれ1233.3円/時(平均時給の72.4%)、808円/時(同47.4%)であった。これは、残業や異動・転勤のある働き方に対する補償額の2~3倍にもなることがわかった。また、残業や異動・転勤といった、生活面での変更を余儀なくされる働き方は、男性よりも女性の、仕事よりも生活満足度をより損ねることが明らかになった。

図表2:満足度を損なう働き方に対する所得補償額(生活満足度、仕事満足度で評価)
残業がある配置転換や転勤がある組織のラインに組み込まれている
(上司の決裁を仰いでいる)
スキルを高める機会はあまりない
平均時給仕事生活仕事生活仕事生活仕事生活
正社員1703.8361.5490.793.6-103.9362.0255.01233.3808.0
100.021.228.85.5-6.121.215.072.447.4
男性1828.2289.7342.274.6-297.5134.2-33.11303.0760.7
100.015.818.74.1-16.37.3-1.871.341.6
女性1356.6473.6774.4189.5843.5789.0878.41034.9846.6
100.034.957.114.062.258.264.876.362.4
注)太字は、有意水準10%以下で有意
上段の単位は円、下段は平均時給(100)に対する比率を表す。

政策的なインプリケーション

これらの結果は、限定正社員の普及に際しては同時にスキルを高める機会を増やすことが重要であり、限定的な働き方のメリットが相対的に大きい女性への普及も政策課題として強調すべきであることを示唆している。