執筆者 | 西村 和雄 (ファカルティフェロー)/八木 匡 (同志社大学) |
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研究プロジェクト | 日本経済社会の活力回復のための基礎的研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
人的資本プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本経済社会の活力回復のための基礎的研究」プロジェクト
Chua (2011)は、中国に多いといわれる子育てと西洋に多いといわれる子育て方法の比較をすることで、厳格な子育ては子供の成功に役立つとして問題提起した。親の子育てのタイプが子供のパフォーマンスに与える影響に関する研究は、Kim (2013)が実証的に"Tiger Mother"と呼ばれる親から子供への子育てのタイプの優位性を否定したことによって、更に注目を集めることとなった。
本稿の研究では、上記の研究で提示された問題関心に関連して、日本のデータを用い、子育てのタイプが子どものパフォーマンスに与える影響について、就業後の所得を成果の代理変数として考えて分析を進める。我々は、16項目の質問で、子供時代の親との関係をたずね、それに対する回答の主因子分析を行い、「関心」「共感」「自立」の3つの因子抽出を行い、自立教育の程度、愛情認知の程度、関心の程度をもとにして、子育てのタイプを、支援型、厳格型(タイガー)、迎合型、放任型、虐待型に分類し、それぞれの子育てを受けたグループの平均所得を比較することで、子育ての方法が労働市場での評価にどのような影響を与えるかを明らかにした。
本調査は、2014年秋にインターネット調査によって実施された。なお、本調査はプレ調査によって子供のいる既婚者のみに標本を限定し本調査を実施(有効数4916名)している。また、本分析では就業者のみを対象とした分析を行った。
本調査の質問項目については、Armsden and Greenberg (1987)の研究を基礎に作成した。本調査では、各質問項目に対して、5段階のリッカートスケールで回答していただき、「まったくそう思わない」に1の点数を与え、「とてもそう思う」に5の点数を与えている。主因子分析では、固有値が1以上となる主因子を抽出しており、抽出された3つの主因子と強い相関を持つ質問項目を見ることにより、第1主因子を「関心」、第2主因子を「共感」、第3主因子を「自立」と解釈した。
我々は、子ども時代に親に叱られた経験についても尋ね、親が「厳しい、やや厳しい、あまり厳しくない、全く厳しくない」のどれにあたるかを調べた。
「関心」「共感」「自立」「厳しさ」を考慮して、子育てのタイプを支援型、厳格型、迎合型、放任型、虐待型に分類した。それぞれの子育てのタイプの平均所得は、図から示されるように、支援型が最も高い平均所得で、次に厳格型である。放任型と迎合型はほぼ同じ平均所得で、虐待型は、少数であるが、平均所得は大きく下がる結果となった。
- 文献
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- Armsden C. Gay, & Mark T. Greenberg (1987), "The Inventory of Parent and Peer Attachment: Individual Differences and Their Relationship to Psychological Well-Being in Adolescence" Journal of Youth and Adolescence, vol.16, No. 5, 427-454
- Chua, A. (2011), Battle hymn of the tiger mother, New York, NY: Penguin Press.
- Kim, Su Yeong, Yijie Wang, Diana Orozco-Lapray, Yishan Shen, and Mohammed Murtuza (2013),"Does 'Tiger Parenting' Exist? Parenting Profiles of Chinese Americans and Adolescent Developmental Outcomes," Asian American Journal of Psychology, Vol. 4, No. 1, 7-18.