途上国における中古品需要と消費者の選好:ベトナム消費者の経済実験データを用いた分析

執筆者 東田 啓作 (関西学院大学)
Nguyen Ngoc MAI (Hanoi Foreign Trade University)
研究プロジェクト 貿易・直接投資と環境・エネルギーに関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「貿易・直接投資と環境・エネルギーに関する研究」プロジェクト

本稿は、ベトナムの消費者の中古製品に対する需要を分析している。まず、消費者の選好(リスクに対する態度、将来をどのくらい重要視するかという視点、他者と協力するかどうかに関する態度)を経済実験という手法によって調査を行った。同時にバイク、および冷蔵庫について、さまざまな特徴を持った商品を提示して選択を行ってもらうことで、消費者がどのような特徴をどのように重要視しているかを明らかにした。特徴としては、(i) 製品の古さ、(ii) 価格、(iii) 日本ブランドの有無、(iv) 製品のタイプ(バイクの場合はスクーターかどうか、冷蔵庫の場合は大きさ)、(v) 輸入品であるかどうか、(vi) 冷蔵庫の場合電気代を節約できるかどうか、といったものを取り上げた。さらに、同じ消費者に、教育、性別、年齢といった基本的な個人属性だけではなく、環境意識や普段のごみ廃棄行動などについてもアンケート調査を行った。

そのうえで、どのような消費者が中古製品に対してより強い需要を持っているかを検証した。

図

分析によって、以下の結論が得られた。

第1に、基本的な製品の特徴は需要に強く影響を与えている。たとえば、ベトナムの市場では日本ブランドに対する選好は強い。また、輸入品に対する選好も強いことが分かった。

第2に、個人属性と製品属性の関連についても、多くのことが明らかとなった。将来を重要視している消費者、環境意識が高い消費者、年齢の高い消費者、普段から環境ラベリング制度を知っている消費者は、中古製品を気にせずに購入しようとする傾向が見られた。一方で、教育水準が高い人、環境意識が高い人は、輸入品だからという理由だけで製品を購入しようとする傾向が小さいことが明らかとなった。これらの消費者は、ブランドや産地情報だけにとらわれることなく、個々の製品の品質を観察することができるためであると考えられる。

また年齢の高い消費者や男性の消費者は、日本ブランドに対する好みが強いということが明らかとなった。

現在、ベトナムをはじめとする多くの途上国では、潜在的に大きな需要があると予想されるにもかかわらず、中古製品の輸入に制限を課している。これには2つの理由がある。第1に、国内で生産される新品と競合するため、国内の製造業を一定程度保護するためである。日本企業をはじめとする多くの先進国企業も、直接投資を行って生産を行っている。第2に、しばしば中古製品の輸入は、そのまま廃棄されるなどして環境問題を引き起こすためである。したがって、有害物質が含まれる場合には、バーゼル条約の下で輸入制限を課すことが認められている。

しかし、これらの輸入制限は、貿易の利益を損なわせている可能性も十分ある。今回の需要の調査から、環境意識の低い消費者に比べて、環境意識の高い消費者のほうが、中古製品を気にせずに購入する傾向が見られた。将来を重要視する消費者についても同様の傾向が見られたことから、少なくとも消費段階に関する限り、ベトナムのような所得が一定程度に達しつつある国では、中古製品の輸入が深刻な環境問題につながる可能性は低いと考えられる。また、中古製品と新品とが消費者の視点からかなり差別化されていること、多くの消費者が新品を望んでいることなどから、中古製品の輸入制限を取り除くことで、国内産業が打撃を受ける可能性も低いと考えられる。

一方で、今回の調査から環境ラベリングが単なる品質表示として認識されている場合が多いことも明らかとなっている。中古製品利用からの便益を最大限享受しつつ、環境問題を引き起こさないためには、市場を通した情報伝達の仕組み(ラベリング制度)の整備とその信頼度の向上とが望まれる。

中古製品の供給が多い日本のような先進国は、途上国におけるラベリング制度の整備を支援しつつ、より自由な貿易を実現していくことが、中古製品の潜在的な輸出国と輸入国の双方が利益を得るために重要である。