パテントプールの動的効果：光ディスク産業における世代間競争

技術とイノベーションプログラム (第三期：2011～2015年度)
「標準と知財の企業戦略と政策の研究」プロジェクト

研究目的

近年、特定の製品を生み出すために、多くの技術が開発される傾向があり、それに伴い特許の所有権が分散されることがある。こうした状況を背景に、特許プールのような技術を集積する効率的で制度的なメカニズムの開発が必要とされている。特許プールは補完的な関係にある技術を集積し、その一括ライセンスを行うことで、技術を広く普及し、同時に研究開発からの収益を高める可能性がある。他方で、特許プールには市場で競争関係にある企業が参加するので、製品市場や研究開発市場におけるこれらの企業の間の競争を抑制するために利用される危険性もある。

特許プールがイノベーションに与える影響についての先行研究は多くないが、最近の研究であるLampe and Moser (2010, 2013)やJoshi and Nerkar (2011)は負の影響があるとしている。標準の中には時間と共に進化するものがあり、そうした場合には世代間競争が生じることになる。Joshi and Nerkar (2011)が注目した光ディスク産業には特にそうした特徴があるが、彼らは全ての研究成果（特許）をプールして分析を行っているという問題がある（図1）。

そこで、本研究は、標準の世代間競争を組み入れて、また標準の合意（1995年）と特許プールの結成（1998年）は異なったタイミングで行われることを認識して、実証研究を行った。特に、DVDの標準化と特許プールに着目して、これらが次世代標準およびDVD自体のR&D競争にどのような影響を与えたかを、ライセンサーとライセンシーの行動を第三者の行動と比較する形で検証した（図2）。

分析結果

本研究では、DVDおよびHDDVD・BDの特許を識別し、DVD標準の合意およびそのプールの形成が、DVDおよびその次世代の技術開発にどのような影響を与えたかを、DVDのアウトサイダーをコントロール・グループとして検証した。その結果、以下の点が見出された。

第1に、DVD標準の合意もその特許プールの形成も、DVD標準のライセンサーによる次世代標準へのR&D投資を拡大した。したがって、DVD標準のプール形成などによって、こうしたライセンサーへの置換効果やサンクコストの効果が強く作用した証拠は見られなかった。第2に、DVD標準の合意もその特許プールの形成も、DVD標準のライセンサーによる、DVD技術を更に発展させるR&D努力も拡大させた。第3に、プール形成後少し遅れて、ライセンシーの次世代標準へのR&D投資が増大した。これらは、世代間競争を考慮していない先行研究とは異なる結果である。

しかしながら、特許プールの形成後に、ライセンサーの特許件数は増加しているが、特許の平均的な質は悪化した。また、そうした影響の大きさは特許プールのロイヤルティの配分ルールと関係していることも明らかとなった。

政策的インプリケーション

このように、DVD標準の合意も特許プールの結成も、ライセンサーおよびライセンシーによる次世代標準およびDVD自体の研究開発を促すことになった。この背景には、特許プールのメンバーは必須特許のRANDライセンスにコミットしているために、DVD標準と競合する技術を開発する企業に対して差別的なライセンスをすることも許されていないことがあると考えられる。さらに、DVDのプールは、標準の必須特許の一括ライセンスに業務が限定されることなどについて、米国司法省のビジネス・レビュー・レターによって拘束されていることも、上述した競争メカニズムが機能した一因となっていると考えられる。

また、DVDの改良技術については、標準に組み入れる技術についてはライセンサーの間での合意が必要であるが、個々のライセンサーは標準の必須特許を拡大し、ライセンス収入の配分シェアを高める強いインセテンィブを有していることが分かった。したがって、発明の質を識別するような設計を利用することによって、特許プールのメンバーのR&Dのパフォーマンスを改善できると考えられる。

図1：世代ごとの特許件数の推移

図2：タイプ別の次世代標準の特許件数の推移

注）縦軸は企業別の特許件数の対数を取ったもの