執筆者 | 玉田 大 (神戸大学) |
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研究プロジェクト | 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)」プロジェクト
2015年、中国独占禁止法の適用について、差別的適用(「外資たたき」)であるという懸念・批判が生じた。厳しい制裁金が外資企業に課される事案が続出したが、他方で中国企業への厳格適用が報告されていないためである。この問題は中国国内法の適用問題であり、原則として中国内で解決すべき問題である。他方で、日本企業や日本政府が何らのアクションもとれないわけではない。有効な紛争解決手段の1つが、日中韓投資協定(2014年に発効)に定められた「投資仲裁」(Investor-State Dispute Settlement: ISDS)である。投資仲裁では、投資家(日本企業)が投資受入国(中国政府)を相手に直接的に国際仲裁に事案を付託することができる。主張内容は以下のものが可能である。(1)内国民待遇(national treatment)条項の違反。ただし、仲裁例はケース・バイ・ケースに判断される傾向があり、確実な違反認定に至るか否かは定かではない。(2)透明性要求規定の適用(同時に、公正衡平待遇義務の違反の主張)。中国独禁法当局の判断根拠が示されない(あるいは不十分である)ことが大きな問題であることから、日本企業(投資家)又は日本政府(投資家本国)が中国政府に対して透明性(理由開示)を求める請求を提起することが考えられる。実際に(1)(2)のような請求が容認されるか否かは予断を許さないが、少なくとも、独禁法(競争法)の問題が投資法(投資仲裁)と密接にかかわりあう可能性があることを十分に意識する必要がある。また、(2)のように、日中韓投資協定は稀有な規定を設けており、是非有効利用すべきであろう。