執筆者 | 木下 祐子 (コンサルティングフェロー)/ファン・グオ (湖北大学) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果 (所属プロジェクトなし)
本稿では日本と韓国の女性の労働参加率を増加させるためにどういった施策が必要かを北欧のフィンランドとノルウェーを比較検証した。日本・韓国では、少子高齢化が他の国に比べて進行しており、潜在成長率を鈍化させないために、労働力不足を解消するために女性労働力をより一層活用していくことが重要と考えられる。構造VARモデルを使った分析の結果、(1)子供向け現金手当ては一般的に女性の労働参加を低下させる、(2)男女間の賃金格差は女性の労働参加を阻む、(3)出生率は女性の労働参加(特に正規雇用)と正の相関関係があることがわかった。
近年、日本・韓国とも女性労働参加率は増加傾向にあるが、高学歴の女性が多いのにもかかわらず、女性労働力全体の半分以上が、キャリアアップのチャンスが低く賃金も安い非正規雇用である。この背景には、日本と韓国において、女性が多くの場合、職業人生の重要な時、結婚や出産などで労働力から離脱し、子育て後に非正規労働者として戻ってくることがあげられる。いわゆる、 女性労働参加率のM字型の就労パターンである。一方の北欧では女性はM字カーブの谷がほとんどみられず、女性は結婚、出産後も引き続き働き続けている。政策担当者は、生産年齢にある女性が子育て中もキャリアを維持できるよう支援することで、この女性の就労のM字型パターンを緩和する必要がある(図1参照)。
1970年代の北欧諸国も、今日の日本・韓国と同様に、人口の減少という人口動態の問題と女性の低い労働参加という課題に直面していた。その後、これらの国々は、包括的な育児休暇や公的な保育施設といったサービスから有給の育児休暇制度の法定化といった公共政策を実施してきた。その結果、賃金と労働力参加の男女差が今日ではOECD加盟国内で最小となっている。一方の日本と韓国では、全OECD加盟国のなかでも男女間の賃金差が最も高くなっている。さらに、これらの北欧諸国では近年、特に1985年以降、働く女性のほうが出生率も高いという傾向がみられる。高い女性労働参加率と高出生率を実現できたのは、女性労働の正規雇用比率が高く、保障の限定的なパートタイム雇用や契約雇用に就く場合よりも、正規雇用に関連する保障を受けるため、子供を持ったあとも労働力としてとどまることが容易になったことが考えられる(図2参照)。
本稿の計量分析の結果では、子供向け現金手当てと根強く残る賃金の男女格差が、正規雇用に就く女性の数にマイナスの影響を与えることを示している。そして、女性の正規雇用の割合の上昇は、完全な保障と雇用保障を理由に出生率の上昇と関連している。 こうした結果は、適切な政策に加え、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)、保育施設、育児への父親の参加といった好ましい環境により支えることで、女性が仕事と家庭を両立することが可能であることを示している。
女性の就労と出産に関する判断は、国・個人による選択の違いを反映しているものの、労働と子育ての機会コストを減少させるために、参加への障壁の削減と差別的なギャップの解消で、公的部門・民間部門が果たすことができる役割がある。日本と韓国の両国政府は、女性の正規雇用の拡大に向け、子供を対象とした現金手当ての給付ではなく、保育施設の拡大と充実を含めた、より包括的な育児サービスを提供することが大切である。また、女性の就労意欲の妨げになる税制システムの是正も必要になってくる。
また、女性の労働力参加に関する決断は、子供を持つか持たないかの決断とも密接に関係しているため、これは女性のみならず男性も下す判断だということである。社会全体が、家庭そして職場での男女平等のさらなる推進という考えを受け入れることが必要になる。民間部門では、より柔軟な就業形態を充実させること、仕事と生活の調和および多様性の促進、並びに幹部レベルに占める女性の割合を増加させるといったことに前向きにとりくむことも重要である。