ノンテクニカルサマリー

防災対策と災害支援の有効性について―東日本大震災における被災企業・事業所の検証

執筆者 Matthew A. COLE (University of Birmingham)/Robert J R ELLIOTT (University of Birmingham)/大久保敏弘 (慶應義塾大学)/Eric STROBL (Ecole Polytechnique)
研究プロジェクト 地域経済の復興と成長の戦略に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「地域経済の復興と成長の戦略に関する研究」プロジェクト

本論文では東日本大震災における企業の防災対策と被災企業への援助の効果を分析した。下記の表のように多くの被災企業が金融機関や政府からさまざまな融資や援助を受けた。また同業他社からも多くの支援を受けた。本論文はRIETIの行った企業特別調査をもとに大きく2つの問題を検証した。第1に災害後、政府・自治体をはじめとする被災企業への支援は効果があったのか、第2に災害発生前から個々の企業が行ってきた防災対策は復旧に効果があったのか、である。計量分析の結果、援助や防災対策はすべてが十分に功を奏したとはいえなかった。しかし、政府や銀行の支援や取引先企業の支援は売り上げや雇用の回復など震災後の企業の復活に効果があったし、事業継続計画(BCP)のような事前の防災対策も生産停止期間を短縮できるなど、ある一定の効果が見られた。データの性質上、極めて短期間の効果を測定しているに過ぎず、経済の復興は中長期的な課題であるので、今後も引き続き同様の研究をしていく必要がある。

表:被災企業の被災状況と援助主体(援助を受けた被災企業の割合(パーセント))
援助主体地震被害津波被害
全壊半壊小規模なし全壊半壊小規模なし
金融機関44.134.615.98.652.769.638.113.0
政府29.423.17.87.354.147.823.86.6
親族14.710.02.53.031.134.89.51.7
同業他社17.612.34.44.747.334.823.83.0
取引先23.523.112.07.855.452.242.99.1
ボランティア8.84.60.51.720.317.44.80.3

政策的インプリケーション

(1)企業の防災対策の強化が必要。企業間防災連携から地方創生へ
今回の分析の結果から分かったように、政府や金融機関の援助も重要であるが、取引先からの援助も重要である。企業間の連携も重要な防災・減災対策になるため、政府や地方自治体が積極的に広域な企業連携を後押ししていくことが必要であろう。さらに、防災での企業間の互助関係を通じて、今まで接触の薄かった地域と地域との新たな取引、新たな人的交流や経済面でのつながりができ、今までになかった広域な地域(地方)経済ネットワークを作ることができるだろう。やがて、地域間の「絆」となり、企業間のコミュニケーションを通じて、新たなビジネスやアイデアも創出されるだろう。閉塞しがちな地方経済が大きくつながることで「地方創生」にも役立つと予想される。

(2)復興政策における企業への援助の在り方
通常の災害で大きく注目されるのは自治体や被災者への援助、自衛隊などによる救助・支援活動、ボランティアによる災害援助活動、ライフラインやインフラの復旧活動である。これらの一連の活動は復旧のための短期的な復興過程である。中長期的な課題は「復興」であり、地域経済をどう立て直すのか、具体的には雇用を確保したり、雇用のミスマッチを少なくしたりして、人口の流出を抑え、地域の経済を成長軌道に乗せることである。中長期的な復興政策の要となるのは「民間企業」である。被災地域の企業を復興政策の中でどううまく位置づけていくのかが非常に重要になってくる。

一方で、政府の援助や支援政策は引き続き重要である。しかし、中長期的には方向の転換や修正が逐一必要になってくると思われる。補助金、優遇税制、金利減免をはじめとするさまざまな復興政策をどれくらいの予算規模でいつまで続けるのか、適切なレベルを設定するのは難しい。復興予算の肥大化や財政負担も考慮に入れなければならない。総じて長期的で大規模な補助金政策は良い結果に結びつかないことが経済学的に知られている。過度な補助金は競争力の低下やイノベーションの喪失を引き起こすことが多々あり、地域経済の停滞につながりかねない。したがって復興政策は中長期的には徐々に民間企業ベース・市場ベースに移し、復興地域内で閉じることなく、さまざまな地域から多様な人材や企業を受け入れるような基盤作りをしていく方向にシフトしていくことが必要だろう。具体的には規制緩和や特区の設立、道州制の導入など積極的に進めることで、さまざまなサービス産業、新規事業や外資系企業を復興地域に呼び込んだり、新しい観光を作り、内外の観光客を呼び寄せるようなことがあげられる。