執筆者 |
FU Jiangtao (早稲田大学) 嶋本 大地 (早稲田大学) 戸堂 康之 (ファカルティフェロー) |
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研究プロジェクト | 企業ネットワーク形成の要因と影響に関する実証分析 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「企業ネットワーク形成の要因と影響に関する実証分析」プロジェクト
政治とのつながりを持つ企業が金融機関から融資を受けやすいことは、さまざまな研究によって見出されている。一般的に、このような企業と政治とのつながりは市場による効率的な資源配分を歪め、経済の成長を阻害すると考えられる。
にもかかわらず、清華大学の李宏彬教授らによると、中国においては経営者が共産党員である企業は銀行からの貸し付けを受けやすく、しかも資本収益率が高いという(Li et al., 2008)。つまり、中国では企業と政治とのつながりによって、むしろ資源が効率的に配分されている可能性があるのだ。なぜこのようなことが起きうるのだろうか。
開発途上国においては、企業の信用情報が金融機関に十分に伝わらない「情報の非対称性」のために、成長力のある企業が十分に融資を受けられない「借入制約」が広く存在している。中国においては、優秀な人材が選ばれて共産党員になることが、やはり李宏彬教授らによって見いだされている(Li et al. 2007)。だから、経営者が共産党員であることはその企業が潜在的に優れていることを示しており、金融機関はその情報を頼りに融資を行うと考えられる。つまり、中国では未発達な金融市場を企業と政治とのつながりが補完しているといえる。
このように、企業と政治とのつながりは開発途上国の資源配分を歪めているとは一概にはいえず、国ごとに状況が異なると考えられる。そこで本研究は、アジアにおける新興大国として注目を集めているインドネシアについて分析を行った。インドネシアは東南アジアにおいても特に政治の腐敗が進んでおり、図1で示されるように、企業が政府から許認可を得る際に賄賂が必要であることが多く(OECD, 2012)、企業と政治とのつながりがどのように経済成長に影響をおよぼすかを分析することには大きな意義がある。
筆者らが独自に収集した企業データを利用した分析の結果、経営者が政治家と個人的な関係をもつ中小零細企業は政府系銀行から十分な額の融資を受けやすい傾向があることがわかった(図2)。さらに、政治的なつながりを活用して政府系銀行から融資を得ている企業は比較的生産性が低いことも見出された。つまり、中国とは異なり、インドネシアでは政治家とのつながりによって非生産的な企業に融資がなされ、資源の分配が非効率になっていると結論づけられる。
インドネシア政府は、成長力のある中小企業に対して優遇的に融資を供給する政策を行っている。しかし、実際にはこれらの融資は政治とのつながりを持つ生産性の低い企業、いわば「ゾンビ企業」に対して行われてしまっている可能性が高い。このような歪んだ資源配分によって、インドネシア経済は停滞し、「中所得国の罠」に陥ってしまう可能性がある。したがって、インドネシア政府は、優遇的な資金供給政策において、政治とのつながりを考慮しない、公正で透明性のある審査制度に改革する必要がある。さらに、情報の非対称性を緩和するような信用情報システムの構築や金融セクターの専門人材(目利き)の育成に対して政策支援をするべきであろう。また、これらの点で日本のインドネシアに対する協力が期待される。
- 文献
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- Li H., Liu P. W., Zhang J. and Ma N. 2007. Economic returns to communist party membership: Evidence from urban chinese twins*. The Economic Journal. 117 (523), 1504-20.
- Li, H., L. Meng, Q. Wang, and L. Zhou. 2008. Political connections, financing and firm performance: Evidence from Chinese private firm. Journal of Development Economics, 87(2):283-299.
- OECD. 2012. OECD Economic Surveys: Indonesia 2012. OECD Publishing: Paris.