ノンテクニカルサマリー

集積の経済は夫婦の出生行動を抑制するのか? JGSS2000-2010累積データからの証拠

執筆者 近藤 恵介 (研究員)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

日本経済は急速な少子高齢化に直面しており、今後は徐々に人口が減少していくと考えられている。労働力人口が減るなか、いかに持続的な経済成長を達成するのかが重要な政策課題であり、集積の経済はその政策手段として注目を浴びている。一方で、集積の経済が夫婦の出生行動を抑制するのではないかとの危惧もある。たとえば、図1に示されるように、人口密度の高い地域ほど合計特殊出生率が低いという相関関係が観測されている。

図1:市区町村別の合計特殊出生率と人口密度の関係
図1:市区町村別の合計特殊出生率と人口密度の関係
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注)合計特殊出生率は平成20~24年人口動態保健所・市区町村別統計、人口密度は2010年国勢調査より作成。その他の詳細は論文を参照

本研究では、そのような背景を踏まえ、集積が夫婦の出生行動を抑制しているのかどうかを実証的に検証している。特に、夫婦が生涯持つ子供の数である完結出生児数に対しても集積が影響しているのかどうかに着目している。また、生涯持つ子供の数が同じであっても、いつ子供を産むのかという時期の決定に対しても集積は影響しうると考えられ、学歴などの要因をコントロールした上で、集積が出生行動を遅らせる要因となっているのかどうかも分析している。このようないつ産むのかというタイミングと集積の関係は図2からも示唆される。図2 (a)を見ると、20代、30代の夫婦は都市部と地方部での子供の数に大きな差があるが、40代に向けて徐々に差は小さくなっている。つまり、都市部の夫婦は遅い段階に子供を持つ傾向がある。ただし、図2(b)が示すように、理想的な子供の数を人口密度の規模別で比較すると、地域間で大きな差があるわけではないことがわかる。したがって、このような差が存在する背景には集積の経済が何かしらの影響を与えていることが示唆されるのである。

図2:都市規模別の子供の数の比較
図2:都市規模別の子供の数の比較
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注)JGSS累積データ2000-2010より作成。その他の詳細は論文を参照

本研究の分析結果は以下の通りである。他の条件は一定とすると、集積は夫婦における子供の数(完結出生児数)を減らす効果があることがわかっている。また、より興味深い結果として、学歴などの要因をコントロールしたうえでも、集積は若い夫婦の出生行動を抑制しており、第1子の出産が地方部と比べて遅くなっていることもわかっている。

本研究は重要な政策的含意を持つと思われる。サービス産業比率が高い日本経済において、集積の経済による成長戦略は依然として有効であると考えられるが、本研究の分析結果は、集積の経済は同時に出生行動を抑制させるという政府にとっては予期せざる効果が存在することを示唆している。ただし、これは集積の経済による政策に問題があるということではなく、同時に集積地において少子化対策を考える必要性があることを示唆している。経済活動のグローバル化が進むなか、国際的な競争力を獲得・維持するためには生産性向上・イノベーション創造は必要不可欠であり、集積の経済による成長戦略は依然として重要であると考えられる。つまり、森川 (2015)が指摘するように、同時にすべてを解決する政策はない以上、お互いがうまく補完し合うような「適切なポリシーミックス(政策の組み合わせ)」を考え、政策議論の場においては「集積の経済性を通じた生産性向上と出生率の引き上げという異なる政策手段」をどのように組み合わせて行えば両立可能性を達成できるのか常に念頭に置きながら議論すべきである。

文献
  • 森川正之 (2015) 『日本経済新聞』2015年1月22日朝刊「経済教室」、28面。