ノンテクニカルサマリー

確率的マクロ均衡と生産関数の基礎づけについて

執筆者 平口 良司 (千葉大学)
研究プロジェクト 日本経済の課題と経済政策Part3-経済主体間の非対称性-
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本経済の課題と経済政策Part3-経済主体間の非対称性-」プロジェクト

マクロ経済学では政策分析の際、労働や資本などの投入要素と国内総生産との対応関係を関数で表記した生産関数をよく用いる。総生産関数としてはコブダグラス型といった計算しやすい滑らかな関数を用いることが多いが、なぜそのような形状になるのかという理由づけに関する議論はまだ完結していない。

本論文では、生産関数の基礎づけを、吉川洋東大教授が提唱している確率的マクロ均衡の概念を用いて行う。生産関数の基礎づけとは、事業所レベルの簡単な生産関数を合計することで、総生産関数の形状を説明することである。確率的マクロ均衡の概念では、マクロ経済を分析する際、代表的個人や代表的企業を考えるのではなく、統計物理の概念を援用し、個々の企業や家計などの行動を確率的なものと考える。本論文では、事業所レベルの生産関数を簡単な固定係数型、つまり生産を1だけ行うのに必要な資本の量と労働の量が決まっていると仮定する。また、労働や資本は確率が最大となるような配分(エントロピー最大化)の状態になるものと仮定する。その帰結として、総生産関数が下の図のようなコブダグラス型になりうることを確率的マクロ均衡理論の立場から明らかにする。

通常、マクロ経済学の考え方を用いて望ましい税制改革の在り方を考える際、総生産関数を持つ代表的企業を想定することが多い。しかし、税制から受ける影響は企業の生産性や規模によって本来大きく異なるはずで、多様な生産性を持つ企業から構成されている経済モデルを用いた方がより正確な政策効果を測れるであろう。本論文が明らかにしたように、確率的マクロ均衡の理論に基づく企業の集計は、日本において実際観測される総生産関数の形状と整合的である。今後はこのような基礎付けをもった多様性のある経済モデルで経済政策の在り方を考えることが必要となろう。

図