ノンテクニカルサマリー

デフレーションとインフレーションのダイナミクス 個別ミクロ物価の解析から

執筆者 吉川 洋 (ファカルティフェロー)/青山 秀明 (ファカルティフェロー)/家富 洋 (新潟大学)/藤原 義久 (兵庫県立大学)
研究プロジェクト 物価ネットワークと中小企業のダイナミクス
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011~2015年度)
「物価ネットワークと中小企業のダイナミクス」プロジェクト

デフレ/インフレはなぜ起きるのか。デフレを止めるためには何が必要なのか。本論文はミクロの個別物価の統計を用いて、こうした問いに答えるべく行った実証分析である。

デフレ/インフレは、多くのモノやサービスの価格を加重平均した一般価格指数の下落/上昇である。したがって、デフレ/インフレの動学を理解するためには、個別物価の動きに関する情報が不可欠である。個別物価の動きを調べてみると、それは定常的ではない。また、一般物価の動きは、ミクロの個別物価の「相互作用」によって生み出されている部分が大きい。

本論文では、こうした個別物価の先行・遅行関係も考慮に入れた動学を、「複素主成分分析」というまったく新しい手法で分析した。金融政策はどこの国でも個別物価の不規則変動を除いたCore CPIを目標に行われているが、本論文は明確な理論に基づきTrue Coreとでも呼ぶべき物価指数を定義する。True Core CPIは、ハイパワード・マネーも含めたマネーサプライとはまったく相関をもたない。一方で、失業率や所定外労働時間という国内の景気を表す指標とは有意な相関をもっている。

本論文で得られた結果は、ハイパワード・マネーを増やし、「期待インフレ」を上昇させることによりデフレから脱却しようとする、日本やEUにおける現行の金融政策の有効性に疑問を投げかけるものである。

図
2007年9月から2009年9月までの各物価の動き。(a)は元の各物価指数、(b)はTrue Core 各物価指数。True Core ではノイズが除去されているため、各物価の本質的な動きが顕著に表されている。