執筆者 |
加納 和子 (武蔵野大学) 加納 隆 (一橋大学) 武智 一貴 (法政大学) |
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研究プロジェクト | 複雑化するグローバリゼーションのもとでの貿易・産業政策の分析 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「複雑化するグローバリゼーションのもとでの貿易・産業政策の分析」プロジェクト
本研究は、地域間取引における貿易コスト(輸送コスト)が引き起こす地域間価格差に着目し、そのコストの規模の測定を試みたものである。地域間の経済格差は、財や生産要素の移動の可否に依存して決定されるため、移動にかかるコストを測定することは重要である。これまでの研究では、地理的要因が引き起こすコスト増は非常に小さいとされてきた。しかしながら、本研究により、距離に依存する貿易コストが、これまでの先行研究よりも大きい点が確認された。
本研究でのポイントは、正しい輸送コストの測定を価格データから行った際に、生産者のマークアップが市場ごとに異なる可能性を考慮した点にある。たとえば高所得地域の市場とそうでない市場とでは価格付けが異なる可能性があり、実際に高所得地域では高価格が設定される傾向が観察されている。図は日本における各都道府県の賃金と野菜の卸売価格の市場価格(出所:全国生鮮食料品流通情報センター)を表したものである(単位はどちらも円(対数))。右上がりの関係が見られるように、高所得の市場において高価格で取引が行われている事が確認される。この地域間の違いが、市場間の輸送コストのみならず、マークアップの違いを反映している可能性があるが、本研究では、価格差以上に輸送コストが大きい可能性を指摘した。
そのため、地域間格差の解消として必要とされる政策は2種類あると考えられる。1つは輸送コストそのものを低減させる政策であり、主にインフラ整備がその候補となる。輸送コストが地域間格差の源泉として重要であることから、新規ネットワークの拡充のみならず、既存ネットワークの高度化による効率的な輸送の達成が求められている。内閣府のイノベーション25の1つに、高度道路交通システムの導入の促進が挙げられており、本研究の結果はその政策の必要性を示していると考えられる。地理的な移動がこれまでの研究により考えられていたよりも生産者の負担になっている点が本研究で示されている事から、その阻害要因を取り除くことで、地域間取引の拡大がより大きく生み出される可能性があるのである。
また、市場構造に対する政策も同時に必要とされる。すなわち、マークアップの違いにより地域間格差が生じる事を回避するために、より競争的な市場構造を達成する必要がある。規制緩和やそれに伴う新規参入の促進などにより、マークアップそのものの低下を導く事で、非効率な市場取引のみならず地域間格差の解消を行うことが可能になると考えられる。