ノンテクニカルサマリー

The Hidden Curriculum and Social Preferences

執筆者 森川 正之 (理事・副所長)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

問題意識

先進諸国においてサービス産業が経済全体に占めるシェアは7割を超えており、その生産性向上が持続可能な経済成長を実現するために不可欠となっている。こうした中、製造業に比べて遅れていたサービス産業の生産性分析が徐々に進展しつつある(森川, 2014参照)。産業・企業の生産性はさまざまな要因によって左右されるが、イノベーションは生産性上昇を規定する要因のうち大きなものの1つである。しかし、イノベーションの実証研究も製造業を対象としたものが多く、サービス産業のイノベーションの実態は十分解明されているとはいえない。

こうした中、たとえば、Jorgenson and Timmer (2011)は、サービス産業では、人的資本、組織変革、企業特殊的な無形資産投資といった「ソフト・イノベーション」に注目する必要があると指摘している。

分析内容

こうした状況を踏まえ、本論文は、日本のサービス企業の各種イノベーションについて、知的資産(特許、営業秘密)との関係に焦点を当てて、製造業企業と比較しつつ観察事実を提示する。具体的には、RIETIで独自に実施した企業サーベイ(「企業経営と経済政策に関する調査」)と政府統計(経済産業省「企業活動基本調査」)のミクロデータをリンクさせた2011年度のデータを使用し、サービス産業のイノベーションの実態、イノベーションに対する特許および営業秘密の貢献に焦点を当てて分析する。

本論文の特長は、(1)サービス産業を広くカバーしたサンプルを使用して製造業とサービス産業のイノベーションを比較すること、(2)新製品・新サービスの開発・導入だけでなく、既存製品・サービスの高度化・改善、生産方法・流通方法の革新、新業種・新業態への進出といった幅広いイノベーションを対象とすること、(3)秘密保持について「営業秘密管理規程」の有無という客観的な指標を使用して分析を行うことである。

分析結果と政策的含意

分析結果によれば、第1に、サービス企業はプロダクト・イノベーションが製造業企業に比べて有意に少ないが、イノベーションを行っている企業の生産性(TFP)は非常に高く、イノベーションの有無による企業の生産性格差は製造業企業よりも大きい(図1参照)。第2に、サービス産業の企業は製造業企業に比べて特許を所有する割合が顕著に少ないが、営業秘密の保有割合は同程度である(図2参照)。第3に、特許・営業秘密の保有とイノベーションの関係を見ると、プロダクト・イノベーションに対しては製造業とサービス産業の間で顕著な違いは見られず、両産業とも知的財産とプロダクト・イノベーションの間には強い正の関係がある。他方、プロセス・イノベーションに対しては、製造業においてのみ営業秘密が正の関係を持っている。

以上の結果は、サービス産業の生産性を高める上でも、特許制度や営業秘密の法的保護が重要な役割を果たすことを示している。サービス産業のイノベーションに関する分析を深化させるためには、イノベーションや知的財産に関するパネルデータをサービス産業もカバーする形で整備していくことが望ましい。

図1:イノベーションと生産性
図1:イノベーションと生産性
(注)グラフは、これらイノベーションを実施していない企業に比べて実施企業の全要素生産性(TFP)がどれだけ高いかを示す。
図2:製造業・サービス産業企業の特許営業秘密・保有割合
図2:製造業・サービス産業企業の特許営業秘密・保有割合

参照文献

  • 森川正之 (2014), 『サービス産業の生産性分析:ミクロデータによる実証』, 日本評論社.
  • Jorgenson, Dale W. and Marcel P. Timmer (2011), "Structural Change in Advanced Nations: A New Set of Stylised Facts," Scandinavian Journal of Economics, Vol. 113, No. 1, pp. 1-29.