ノンテクニカルサマリー

人口減少下における望ましい移民政策-外国人受け入れの経済分析をふまえての考察-

執筆者 萩原 里紗 (慶應義塾大学)
中島 隆信 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 人口減少下における望ましい移民政策
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

社会保障・税財政プログラム (第三期:2011~2015年度)
「人口減少下における望ましい移民政策」プロジェクト

本論文の目的は、移民の受け入れが国内経済に及ぼす影響について、経済成長率、イノベーション、産業構造の高度化、賃金、雇用、失業、社会保障、財政という観点から既存研究のサーベイを行い、世界にも例を見ない少子高齢・人口減少社会を迎える日本にとって望ましい移民政策を探ることである。

サーベイの結果、高度な技術・技能を有し、受入国の標準語でのコミュニケーションが可能な人材を受け入れることができれば、受入国の経済成長を促進し、自国労働者の社会保障負担を軽減し、財政安定化にも寄与するなどのよい影響をもたらすという「当たり前のこと」が確認された。このことは近年、語学力、学歴、収入などで一定の要件を満たした移民のみを受け入れるという選択的移民制度が世界の主要国で導入されていることと整合的である。しかし、こうした「政策」は「いい移民ならば受け入れたい」という受入国のエゴ以外の何ものでもない。

また、低成長に加え、今後の人口減少が深刻化する日本では、移民に担い手不足の農業や労働集約的な看護や福祉サービスに従事してもらえばよいという意見が根強い。しかし、それは現状維持を目的として移民に頼るという従来型の後ろ向き発想である。すなわち、低成長と少子高齢化によって生じた財政赤字を国債の大量発行によって将来世代につけ回してきたのと同じ問題の先送りなのである。日本の社会構造を変えない限り、移民も日本で生活を始めれば同じ問題に巻き込むことになる。

2020年に開催が予定される東京オリンピックの準備の必要性から、日本に海外からの建設労働者を受け入れるべきという議論もなされているようだが、こうした急場しのぎの自国都合から移民を受け入れることは過去の歴史が物語るとおり、将来に禍根を残すことになる。日本にとって真に望ましい移民政策は、国内事情とは関係なく、各国の移民制度との整合性をとりつつ、長期的な視野に立って考えなければならない。すなわち、移民を異質なものとして排除するのではなく、それを受け入れ、共存するといった多文化共生の考え方である。そうした考え方は、障害者や女性の活用促進といった日本国内の課題の解決にもつながるだろう。