執筆者 | 原田 信行 (筑波大学) |
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研究プロジェクト | 日本における無形資産の研究:国際比較及び公的部門の計測を中心として |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本における無形資産の研究:国際比較及び公的部門の計測を中心として」プロジェクト
企業活動における無形資産投資の重要性が近年注目されてきている。しかし、無形資産投資は一般に捕捉が難しく、とくに非上場企業については入手可能な情報も少なく十分に研究が進んでいない状況にあった。この点に関して「日本における無形資産の研究」プロジェクトでは、2013年に日本企業の無形資産投資に関する実態調査を実施し、貴重な情報を収集した。本研究では、この新たに実施された「無形資産投資に関するアンケート調査」の個票と、調査対象企業の複数年の財務情報をマッチングした企業別データセットに基づき、日本の非上場企業の無形資産投資活動とその効果に関する分析を行っている。
今回の調査の大きな特徴は企業内の幅広い活動を無形資産投資と捉え、統一的にそれらの実施状況を尋ねている点である。具体的には、下表の8項目について、それぞれ過去5年間(2007~2011年度)の無形資産投資の実施の程度を選択式で尋ねている。この設問の結果を非上場企業449社に関して集計したものが下表である。一見して、研究開発や商品開発に継続的に取り組む企業が相当程度みられること、多くの企業でOJTやOFFJTが行われてきていることなどがわかる。
継続的に実施 | 散発的に実施 | 実施していない | 計 | |
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A 科学的・技術的な研究開発 | 24.5% | 12.9% | 62.6% | 100.0% |
B ソフトウエア制作 | 29.8% | 36.1% | 34.1% | 100.0% |
C 商品開発・設計・デザイン | 36.1% | 17.8% | 46.1% | 100.0% |
D コンテンツ作成 | 5.6% | 10.0% | 84.4% | 100.0% |
E マーケティング | 21.6% | 30.1% | 48.3% | 100.0% |
F 組織改編 | 23.2% | 34.5% | 42.3% | 100.0% |
G 教育訓練(OJT) | 47.9% | 26.1% | 26.1% | 100.0% |
H 教育訓練(OFFJT) | 35.4% | 34.1% | 30.5% | 100.0% |
N=449 |
そのうえで、本研究ではこれらの無形資産投資の実施の程度と経営成果との関係について検証を行っている。具体的には、観察可能な情報のなかから、直近の収益性(総資産利益率と売上高利益率)および成長性(売上高成長率と雇用成長率)との関係を検証した。分析の結果、総じて無形資産投資は収益性よりも成長性に強く働く傾向があることなどが示されている。これは比較的理解しやすい結果である。これらの幅広い無形資産投資は非上場企業の売り上げや雇用の拡大を通じて経済状況の改善につながる可能性があるため、今後、その効果をさらに高める方策について検討することが望まれる。具体的には諸活動を組み合わせて成果を出すタイプの取り組み、とくに施策との関連では、戦略的基盤技術高度化支援事業のような事業の利便性をさらに高め、柔軟に本格的な商品展開に移行しやすくするなどの例が考えられる。