ノンテクニカルサマリー

日本の「法外な特権」

執筆者 Kenneth S. ROGOFF (Harvard University)/田代 毅 (コンサルティングフェロー)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

「法外な特権」というコンセプトは世界中の政策担当者や研究者から注目を集めてきた。この「法外な特権」というアイデアは、もともとはドルの準備通貨としての地位を背景として、米国政府の債券を極端に低い金利でも海外の投資家が保有することを示していた。近年、この「法外な特権」という概念は拡張して用いられ、直接投資や証券投資なども含めた全てのアセットクラスにおいて、米国が対外負債に支払うよりも対外資産から所得を得ているという超過収益を説明するためのコンセプトとして扱われている。この論文では、我々は、こうした「法外な特権」というコンセプトを概観し、その上で、20年以上も世界最大の債権国である日本を例として、「法外な特権」を議論する。

我々の分析は、今の日本は、常識とは異なり、かつて論じられていたようなひどい投資家では決してないことを明らかにする。実際に、狭い意味でも広い意味でも、近年日本は「法外な特権」を享受している。こうした証拠は、たとえばFarhi and Gabaix (2013)などで示されたような極端なイベントなどに対しても、日本が安全資産としての地位を享受していることを示唆している。しかしながら、特に広義の日本の「法外な特権」-つまり超過収益-については、その源である債券投資に関して、近年対外資産サイドと比較して特に短期の対外負債が拡大しつつあり、それは満期変換のリスクを伴ったものであることを暗に示している。更に、そうした短期の対外負債は政府債務であり、長期の対外資産は主に民間資産である。加えて、政府それ自体も多額の長期資産を外貨準備を通じて保有している。日本がこうした「法外な特権」を長期に渡って保持できるかは、こうしたリスクを成功裏に制御できるかどうか、に依拠することも示唆している。

表1:対外資産・対外負債からのリターン差の推計(1996年から2013年)
資産負債収益率の差
総計総計4.23.11.1
利回り3.61.91.7
ストック・フロー調整効果0.61.3-0.6
直接投資総計4.39.1-4.8
利回り6.48.3-1.9
ストック・フロー調整効果-2.00.9-2.9
証券投資・債券総計5.80.45.5
利回り5.22.52.6
ストック・フロー調整効果0.7-2.12.8
証券投資・株式総計10.98.82.1
利回り5.21.33.9
ストック・フロー調整効果5.77.5-1.8
その他投資総計2.23.4-1.2
利回り1.91.60.4
ストック・フロー調整効果0.31.9-1.5
外貨準備ストック・フロー調整効果1.8
(参考)
債券投資+外貨準備
利回り1.2
注:ストック・フロー調整効果は前年からのポジションの変化から投資収支を除いたもの。「為替要因」や「株価変動など取引・為替変動以外による増減」によって構成される。
外貨準備からの所得収支データに関するデータ制約から、参考として債券投資と外貨準備を合わせた場合の利回りも掲載している。
直接投資の再投資収益は含めた計算としている。
データ制約の観点から、1995年の資産・負債のポジションに関しては証券貸借取引を含めている。
出典:財務省・日本銀行「対外資産負債残高」、財務省・日本銀行「国際収支統計」、IMF, International Financial Statistics and Balance of Payments Statistics