ノンテクニカルサマリー

アジア太平洋におけるEPAの相対的な重要性

執筆者 川崎 研一 (コンサルティングフェロー)
研究プロジェクト FTAの経済的影響に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「FTAの経済的影響に関する研究」プロジェクト

2013年には、世界的に経済連携の動きが加速した。日本、米国、EUの巨大三角形の間で交渉が始まった。アジア太平洋でも、環太平洋経済連携(TPP)の交渉に日本が参加する一方、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉が開始された。

本論文では、経済連携が経済全体に与えるマクロ的な経済効果を数量的に分析する。分析に当たっては、応用一般均衡(CGE)世界貿易モデルの標準的な分析道具として世界的に広く用いられている世界貿易分析プロジェクト(GTAP)のデータおよびモデルを用いる。その際、標準的な比較静学の枠組みを改良し、資本蓄積、また、競争促進的な生産性の向上といった貿易の自由化・円滑化の動態的な側面も織り込んでモデル分析を行う。また、これまで分析してきた関税の撤廃(「EPAの優先順位:経済効果の大きい貿易相手は?」、RIETIコラム第318回、2011年5月31日を参照)に加えて、非関税措置の削減による経済効果も推計し、更に、非関税措置の削減が経済連携の域外にも波及する効果を併せて考慮する。

特に、本論文では、TPP、RCEP、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)といったいくつかの経済連携の相対的な重要性を比較検討する。経済連携が各経済に及ぼす経済効果に加えて、そういった経済効果をそれぞれの経済毎の関税撤廃、非関税措置削減による貢献の別に推計し、どの経済による措置が各経済や域内経済全体にとってより大きな経済効果をもたらすのか、また、自らの措置と相手の措置の何れがより重要なのかなどを明らかにする。

TPPとRCEPは競争相手ではなく、補完的な関係にあるといえよう。アジア太平洋経済協力(APEC)経済全体では、FTAAPの形成による所得の加はGDPの4.3%に相当し、TPP(1.2%)、RCEP(2.1%)の何れよりも遥かに大きくなると推計される。TPPとRCEPは、どちらかを選択するのではなくどちらも推進し、FTAAPの実現に向けた両輪とすべきと考えられる。

APEC経済全体にとっては、最も大きな所得の増加をもたらすのは中国による関税撤廃、非関税措置削減であり、ロシア、更に、米国がその貢献度で続く位置を占めると推計される。しかしながら、東南アジア諸国連合(ASEAN)を始めとした多くの経済では、そういった経済的な便益は、経済連携の相手ではなく、自らの措置の実施によるところが大きいことが示される。また、米国を始めとした多くの経済において、経済連携の経済効果は、関税の撤廃に加えて、非関税措置の削減による所得の増加がより大きくなると推計される。経済連携によるより大きなマクロ経済的な便益を享受するためには、自らの市場の改革が鍵を握るといえよう。

日本にとっては、TPPによる所得の増加は、関税撤廃(GDP比、0.8%)に比べて、非関税措置も削減した場合(1.6%)がより大きくなると推計される。関税撤廃や非関税措置削減の合意水準によっては、TPPとRCEPの何れの経済効果が大きくなるかは予断を許さない。より重要で明らかなのは、TPPとRCEPの双方を推進し、FTAAPを構築することがより大きな経済効果をもたらすことであろう。

図:日本の所得の増加効果
図:日本の所得の増加効果