ノンテクニカルサマリー

メガFTAの時代のグローバルバリューチェーンへの包括的対応―通商戦略の観点から

執筆者 中富 道隆 (コンサルティングフェロー)
研究プロジェクト 国際投資法の現代的課題
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「国際投資法の現代的課題」プロジェクト

1 なぜグローバルバリューチェーンなのか(議論活発化の背景分析)

最近、グローバルバリューチェーン(GVC)についての議論が国際的に活発化している。GVCは大変に広範な概念であり、目的的かつ戦略的概念である。

議論活発化の背景としては、企業の多国籍展開とサプライチェーンの実態を明らかにした、ジェトロ・アジア経済研究所とWTOとの付加価値貿易分析レポートの発表(2011年7月)が分析面で大きな影響を与えている。

また、通商システムにおける自由化・ルール作りの観点からは、WTO・ドーハラウンドの低迷、FTAの広域化とメガFTAの現出、Behind-the-border measures・非関税措置への関心の高まり、サービス貿易の重要性の認識が背景にある。通商システムはGVCの変化に取り残されている。

産業界は、その国際展開を円滑化する枠組みを、変動し混乱する通商システムの中に実現していくことに強い関心を持っており、GVC分析がその有効なツールとして捉えられている。

こうした背景により、国際的にGVCへの関心が高まっており、「包括的」なGVCへの取り組みの必要性が広く認識されている。

アジアにおけるGVCの議論はアセアンを中心とした経済の「連結性」の議論が中心であり、戦略性を持って欧米のGVCの議論と「連結性」の議論とを繋いでいくことが今後必要となる。

2 ISCAとは(GVC改善のための具体提言)

GVC改善のための政策的ツールとしては、WTO・ドーハラウンドの低迷、メガFTAの現出を背景に、FTAへの期待が高まっている。

しかしながら、メガFTAも「地域」協定であり、自動的にグローバルな解をもたらすものではなく、今後通商ルールのスパゲティーボウル現象が深刻化する惧れがある。これに対処するには、ITA等の先例に倣い、産業界との密接な連携のもとに、GVCの円滑化に向けた、イッシューベースの複数国間協定を作ることを検討すべきである。筆者が提唱するISCA(International Supply Chain Agreement)は、GVCの改善に着目した、複数分野での協定構想である。

3 GVC改善のツールと通商政策形成のシナリオ(メガFTAの時代のGVC)

今後暫くの間は、GVCを支える自由化とルール作りの主たる牽引力は、FTA、特にメガFTAが担うことが予想される。他方で、メガFTAは自動的に理想的でグローバルな通商システムを実現するものではない。メガFTA交渉の迅速性、メガFTA相互の調和作業の迅速性、事後的調整の容易性等を前提にした理想的なシナリオが実現する保証はない。

放置すれば、メガFTAが消化不能のルールのスパゲティーボウルを生み出す危険がある。

これを回避するには、将来の通商システムについての明確なビジョン、「世界解」を目指した政策展開、GVC円滑化の思想、イッシューベースの国際ルール作りの思想(一例がISCA)、透明性と情報共有等が不可欠である。

日本は、4つのメガFTAに同時に参加する地位にあり、これらを念頭に置いたブレない「統一軸」の形成、提案と発信が、今後の国際通商システムの形成に当たり強く期待されている。