ノンテクニカルサマリー

政策の不確実性と企業経営

執筆者 森川 正之 (理事・副所長)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果 (所属プロジェクトなし)

問題意識

主要国で与野党の対立に伴う政策決定の停滞が見られ、いくつかの国では政権交代に伴って大きな政策変更が起きている。政権交代や国会のねじれ現象もあって、日本でも経済制度・政策の長期的な見通しには不確実性がある。不確実性が実体経済に負の影響を及ぼすことは、経済学の理論・実証研究でも古くから関心を持たれてきたイシューであり、売上高等の先行きの不確実性が設備投資、研究開発、従業員の採用に影響することが実証的に確認されている。最近は、政治の不安定性や「政策の不確実性」が、経済成長、投資、雇用といった実体経済に対して負の影響を持つことも明らかにされてきている。

しかし、現実にはさまざまな経済政策がある。これまでの研究からは、いかなる政策の不確実性が高いのか、いかなる政策の不確実性が経済主体の行動に大きく影響するのかは明らかではない。このような状況を踏まえ、本稿では、日本の上場企業を対象としたサーベイ(2013年2~3月に実施)に基づき、企業がいかなる制度・政策の先行きを不確実と認識しているのか、いかなる制度・政策の不確実性が経営上の意思決定に及ぼす影響が大きいのか、どういう種類の意思決定が不確実性の影響を強く受けるのかについて、観察事実を報告する。

分析結果の要点

(1)大多数の企業が景気の先行き改善を予想しているが、平均的に経済成長率で±0.6~0.7%程度、CPIで±0.5~0.6%程度、予測の不確実性(標準偏差)が折り込まれている。
(2)自社製品・サービスの売上高の先行きは、非製造業企業に比べて製造業企業で主観的不確実性が高い。従業者数の見通しは、非正社員の増加率見通しがいくぶん高いが、正社員に比べて不確実性も高い。
(3)日本企業(特に製造業企業)は、世界経済の成長、為替レートの先行きに高い不確実性を感じており、これらが企業経営に与える影響も大きいと認識している。
(4)経済制度・政策の先行きに関しては、通商政策、社会保障制度の先行きに高い不確実性を意識している。政策の不確実性が企業経営に及ぼす影響は、税制、通商政策、環境規制等が大きく、事業の許認可制度を挙げた企業は少ない(図1参照)。
(5)政策の不確実性が影響する経営判断は、製造業では設備投資、研究開発、海外展開への影響が大きく、非製造業では正社員の採用、組織再編への影響が大きい(図2参照)。これら長期の意思決定にとって基幹的な経済制度の予測可能性が重要なことを示している。

政策的含意

「成長戦略」の1つとして規制改革が頻繁に取り上げられる。しかし、具体的にいかなる規制改革が日本経済にとって重要なのかまで論じられるケースは多くない。本稿の結果によれば、事業の許認可制度といった個別産業規制よりも、社会保障制度、労働市場規制といった産業横断的な制度のあり方が企業経営に大きく影響している。

本稿の結果は、企業の前向きな投資を活性化し、日本経済の成長力を引き上げるためには、制度・政策の予測可能性を高めることが重要なことを示唆している。

図1
図1:経済制度・政策の先行き不透明感・経営への影響(%)
図2
図2:政策の不確実性の影響が大きい経営上の意思決定