ノンテクニカルサマリー

スウェーデンの財政再建の教訓~経済成長と両立する財政再建がなぜ可能だったのか~

執筆者 翁 百合 (日本総合研究所)
研究プロジェクト 経済成長を損なわない財政再建策の検討
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

社会保障・税財政プログラム (第三期:2011~2015年度)
「経済成長を損なわない財政再建策の検討」プロジェクト

スウェーデンの財政再建の成功のエッセンスは、増税と歳出削減をバランスよく組み合わせ、持続的な成長の実現に配慮した財政運営を続け、柔軟で透明な財政運営ルールを作ったことにあった。しかも、為替減価による輸出増が緊縮財政のネガティブな影響を打ち消し、IT化への積極的取り組み等が生産性の向上による持続的成長を可能にした。当時のスウェーデンの状況と照らし合わせると、わが国を取り巻く経済環境は厳しく、財政再建を巡る今後の展望は厳しいが、以下のような点に注意して進める必要があるだろう。

第1に、わが国においても、増税だけでなく、「無駄な」歳出の削減については本格的に取り組む必要がある。具体的には医療提供体制の見直し、データ整備または生活保護制度の改革などによって、非効率に使われている財政支出の見直しには取り組む必要があろう。しかしわが国は、スウェーデンと異なり、内需依存度が高く、今後人口動態が大きく変化し、高齢化が急速に進行する。それだけに、今後財政再建に取り組む際には、内需の動向に十分配慮していく必要がある。

第2に、スウェーデン、カナダの経験を見る限り、財政再建を成功させた主要な背景に、為替が大幅に減価し輸出競争力が回復し、輸出増加が財政緊縮策を可能にしたことがある。この点で、わが国でも自由貿易協定締結などの取り組みはきわめて重要である。

第3に、成長に向けての施策は重要である。スウェーデンのように、立地を魅力的にして外資を呼び込み、マザー工場を残すなどにより、輸出基盤を残すことは当然であるが、特に労働人口の減少も見込まれる中、労働生産性を向上させながら経済を成長させる努力が参考になると考えられる(図表参照)。同様に、スウェーデンのように女性労働力を生かし、少子化の進行を食い止めるための子育て支援政策のための財政支援も、長期的な成長には不可欠である。

第4に、わが国のGDP比でみた公的債務残高はきわめて高く、わが国の家計部門と企業部門の貯蓄超過という国債の購入余力の大きさが、わが国の「財政的限界」を猶予しているといえる。しかし、今後高齢化に伴う家計貯蓄の急速な減少は、国債需要に影響を与える可能性もあるため、質の高い投資を増やして資本生産性を向上させることにより高付加価値の財・サービスを提供するなど、貯蓄投資バランスにも配慮した経済政策運営が求められる。

第5に、スウェーデンが行った、財政再建のための中期的かつ柔軟で現実的なルールを導入し、これを市場に発信するとともに確実に実行していくことも、きわめて重要である。

図:90年代以降のスウェーデンの生産性上昇の推移(国際比較)
図:90年代以降のスウェーデンの生産性上昇の推移(国際比較)
資料)OECDより日本総合研究所作成