ノンテクニカルサマリー

日本企業におけるIT投資の効果:ミクロデータに基づく実証分析

執筆者 金 榮愨 (専修大学)
権 赫旭 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト サービス産業生産性向上に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

基盤政策研究領域II (第二期:2006~2010年度)
「サービス産業生産性向上に関する研究」プロジェクト

1990年代以降、失われた20年と言われるほど日本経済は低迷してきた一方、米国経済は同時期に高い経済成長を享受してきた。米国経済はIT投資とその活用によって飛躍的な生産性成長を成し遂げたことで「ニュー・エコノミー」と称されるほどだった。しかし、同時期の日本経済は1980年代と比べ、経済成長率が半分以下になり、米国のようなIT投資による飛躍的な生産性上昇は見られなかった。日本経済がIT投資の効果を享受できなかった理由として、深尾・権(2011)はIT投資が活発に行わなれなかったことを挙げている。

図:情報処理集約度の推移
図:情報処理集約度の推移

上記の図に示されるように『企業活動基本調査』と『情報処理実態調査』を接続したデータにおいても、日本でR&D集約度(研究開発投資/売上高)は堅調に推移しているが、IT集約度(平均情報処理関係諸経費/年間事業収入)は低下していることが確認できる。日本経済が再生するためには投資の期待収益率を高めて、投資を拡大させることが必要である。特に、生産性上昇への寄与度が高いIT投資を促進することは非常に重要であることは言うまでもない。本稿では、経済産業省が毎年実施している『企業活動基本調査』と『情報処理実態調査』を接続したデータを用いて、日本経済再生のために必要不可欠であるIT投資の動き、その効果や問題について分析した。

実証分析により得られた結論は以下の通りである。(1)ITサービスの付加価値弾力性は17%から18%である。(2)日本企業におけるIT関連費用の付加価値弾力性は2000年代半ばから上昇する。IT集約度の低下の下で、これはIT投資の収益率の上昇を意味する。(3)日本企業のIT関連費用は2004以降減少する。IT投資の収益率が高まったにもかかわらずIT投資が減少した原因として、IT要員に対する教育・研修と組織改編などの補完的な資産への不十分な投資が考えられる。補完的な投資を行っている企業ほどIT集約度が高い。

分析結果から、経済成長に寄与するIT投資を促進するためにはIT投資のみならず、IT要員に対する教育・研修と組織改編などの補完的な資産への投資が必要であることが分かる。IT投資を促進させるためには、IT投資に関する減税だけではなく、企業による労働者の訓練や組織の改編に対しても政策的な支援が必要である。