ノンテクニカルサマリー

非正規労働者の雇用転換-正社員化と失業化

執筆者 久米 功一 (名古屋商科大学)
鶴 光太郎 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第三期:2011~2015年度)
「労働市場制度改革」プロジェクト

問題の背景

非正規雇用に対しては、無業者・失業者を雇用につなぎ、さらに正社員へ転換するステップとしての役割が期待されているが、非正規雇用から他の雇用形態への転換の実態はどのようであろうか。本研究では、2009年1月から6カ月毎に計5回にわたって(独)経済産業研究所が実施した『派遣労働者の生活と求職行動に関するアンケート調査』の結果を用いて、非正規雇用から正社員あるいは失業に転じる場合の決定要因について実証的に分析した。具体的には、非正規雇用の雇用形態の詳細な情報を用いて、雇用形態の違いが正社員化に与える影響の把握に努めた。また、非正規雇用から正社員または失業への転換を比較可能な範囲内で分析した。さらに、(人びとが働いてもよいと考える賃金である)留保賃金を取り上げて、標準的なジョブサーチ理論が示唆する留保賃金の大きさが正社員への転換や失業に与える影響の有無を確認した。

分析の結果

前職の雇用形態と正社員化・失業化の関係は、図1の通りであった。正社員化した人の前職は、製造業派遣や契約社員、失業の割合が高く、失業化した人の前職は、失業、製造業派遣が多かった。こうした傾向を把握した上で、回帰分析を行った。

図1:前職の雇用形態と正社員化・失業化(%)
図1:前職の雇用形態と正社員化・失業化(%)

推計結果をまとめると表1の通りである。前職が契約社員、卒業直後に正社員、前職の労働時間が長い、企業規模が小さい、人的ネットワークやインターネットを求職手段として活用する等の要因が非正規雇用から正社員への転換確率を高めていた。その一方、前職の雇用形態、業種、労働時間等の就業状態は非正規雇用から失業への転換に影響していなかった。雇用形態別にみると、他の雇用形態と比較して、失業者から正社員への転換が起こりやすいものの、正社員の職にこだわるほど失業期間が長期化していた。

表1:推計結果のまとめ
表1:推計結果のまとめ

留保賃金が高いほど正社員になりやすく、留保賃金が低くても失業に陥る点は、ジョブサーチ理論の予想に反していた。失業期間を利用することによってジョブマッチングを高める一方で、正社員の職へのこだわりからくる失業の長期化は人的資本を減耗させることから、失業を経ることなく非正規雇用から正社員へ転換できるようなオン・ザ・ジョブ・サーチ(仕事を続けながら職探しを行うこと)の支援や多様な正社員制度の整備が望まれる。