ノンテクニカルサマリー

成長に友好的な税・年金改革―マクロモデルによる効果試算―

執筆者 岩田 一政 (日本経済研究センター)
猿山 純夫 (日本経済研究センター)
研究プロジェクト 経済成長を損なわない財政再建策の検討
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

社会保障・税財政プログラム (第三期:2011~2015年度)
「経済成長を損なわない財政再建策の検討」プロジェクト

本論は、「成長に対して友好的な税・年金の抜本改革」として、基礎年金の税方式化と報酬比例部分の積立方式移行を柱とする3つの改革案を提案する。同時に、企業活力を高める観点から法人税減税を実施する。中長期の財政中立を確保するために、毎年1%ずつ消費税率の引き上げを実施する。

税・社会保障改革の議論はともすれば財源論に偏りがちであり、負担増を中心とした改革は経済を不安定にし、財政再建も困難にする恐れがある。本論は、経済の供給面改善を目指した改革実施により、成長と財政健全化の両立を図る試みである。

改革には3つの選択肢を設けた。即時に公的年金を民営化する即時民営化案(A案)、段階的に保険料を引き下げ約10年で民営化する段階的民営化案(B案)、2階の報酬比例部分は現行のまま残し1階の基礎年金部分の財源を全額税にする税方式のみ実施案(C案)の3案である。

表:成長に友好的な税・年金改革――3つの選択肢
表:成長に友好的な税・年金改革――3つの選択肢
※3案とも「1階の税方式化」「法人税減税10%」は共通

経済効果をマクロモデルで試算すると、公的年金の即時民営化を行うA案では、年金保険料の廃止、法人税率の引き下げで、企業が設備投資や雇用・賃上げを積極化するため、実質国内総生産(GDP)が最大で4%程度高まる。また、デフレ脱却も可能になり、消費者物価上昇率は2%程度となる。他方、年金民営化に伴う「二重の負担」を財政で肩代わりするため、政府債務残高は拡大する。

改革を基礎年金の税方式化にとどめるC案では、GDPの引き上げ幅は1%程度になるが、政府債務はむしろ縮小し、経済成長と財政再建が同時に達成できる。現在の公的年金は保険料に見合った積み立てが行われておらず、保険料は事実上賃金を課税対象とする賃金税である。今後、高齢化の進展とともに現役世代の負担は今後一段と重くなる。世代間の不公平を是正し、働く若者が将来に希望を持てる公的年金制度の抜本的改革が求められている。

図:「成長に友好的な税・年金改革」の経済効果(基準シナリオとのかい離)
図:「成長に友好的な税・年金改革」の経済効果(基準シナリオとのかい離)