ノンテクニカルサマリー

高度化する東アジアの輸出

執筆者 THORBECKE, Willem (上席研究員)
研究プロジェクト East Asian Production Networks and Global Imbalances
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

国際マクロプログラム (第三期:2011~2015年度)
「East Asian Production Networks and Global Imbalances」プロジェクト

Hausmann、Hwang、Rodrik(2007)の研究によると、より高度な製品を輸出する国ほど早いペースで成長する。高度化の進展度を測定するにあたり、Hausmann、Hwang、Rodrik(2007)、Kwan(2002)は、豊かな国ほど技術的に高度な製品を輸出する傾向があると仮定した。この仮定の根拠は、豊かな国の輸出品にはより高い労働コストがかかっているということである。より高度な技術工程を経て製造された製品でなければ、世界市場で競争できない。

我々は、Hausmann et al.やKwanの手法を用いてアジアの輸出の高度化について検証した。その結果、日本は1980年代と90年代初頭、技術的フロンティアで生産活動を行っていたが、その後、後退してしまった。現在は、スイスなどと比較して高度化で劣る資本集約財を生産している。

とはいえ、日本の輸出品は総じて、韓国・台湾と比べると高度である。これは主として、資本財・設備財の生産における日本の優位性を反映している。同様に、韓国・台湾の輸出品は、中国、マレーシア、フィリピン、タイと比較すると高度である。さらにこのような中所得国の輸出品は、インドネシア、ベトナム、カンボジア、ラオスと比較した場合、どの尺度から見ても高度である。

以下のグラフは日本、韓国、中国、ベトナムからの輸出高度化の度合いを示す。グラフの見やすさを考慮し、台湾、タイ、マレーシア、フィリピンは除外した。本稿の検証結果が示すように、台湾の輸出高度化指数(CSI)は韓国に近く、タイ、マレーシア、フィリピンのCSIは中国に近い。グラフから、1)日本の輸出は韓国(ひいては台湾)の輸出と比較して高度であり、2)韓国の輸出は中国(ひいてはマレーシア、フィリピン、タイ)と比較して高度であり、3)中国の輸出はベトナム(ひいてはカンボジア、ラオス)と比較して高度であることが示されている。また、日本と韓国、韓国と中国、中国とベトナムの間でそれぞれ、輸出品目がかなり重複していることが示されている。しかしながら、日韓両国をベトナムと比較すると重複はほとんど見られない。

国連貿易開発会議(UNCTAD)がまとめた商品貿易相関指数の結果をみても、2012年の時点で日本の輸出は、韓国・台湾との間に競合性が、中国・ASEANとの間では補完性が見られた。韓国と台湾は競合性が高いが、両者と中国・ASEANとの間の競合性はそれほど高くなかった。ASEAN各国同士も幅広い分野において高い競合性が見られた。

東アジア各国間の競合性や協力関係の深さを考慮すれば、域内におけるより一層の為替相場の安定は、日韓のような競合性の高い国同士の輸出に際する不安定要因を緩和させ、域内の先進国と新興国のように協力関係にある国同士の貿易を促進するだろう。

また、本稿の検証結果は、東アジア各国の政策立案者は自国の輸出の高度化の現状に甘んじることなく、人的資本の質を高め、イノベーションを促進し、技術レベルを上げていかなければならないということを示している。さらに、輸出品目が一次産品に集中するインドネシアや、繊維製品に著しく偏るカンボジアのような国は、より高い経済成長の実現を目指し、輸出品目の多様化に努めるべきである。

図:輸出製品の高度化指数別にみた、日本、韓国、中国、ベトナムの輸出頻度
図:輸出製品の高度化指数別にみた、日本、韓国、中国、ベトナムの輸出頻度
注:異なる高度化指数の製品が各国の輸出総額に占める割合を示す。製品の高度化指数はKwan(2002)の手法に基づいて計算している。
出典:CEPII-CHELEMデータベースをもとに筆者が計算。